
冷蔵庫から卵をひとつ取り出して、よく見てみます。片方の端はぽってりとまるく、もう片方は少しとがっている。左右で形が違う、あの「たまご型」です。あまりに見慣れていて、なぜこんな形なのか、考えたこともないかもしれません。
聞いたことがあるとすれば、「とがっているのは、巣から転がり落ちないため」でしょうか。とがった卵は転がると円を描いて、もとの場所に戻ってくる。だから崖のような場所でも落ちない、という話です。
でも、そもそもあの形は、何が作っているのでしょう。そして、本当に「落ちないため」なのでしょうか。世界中の鳥の卵を大がかりに調べた研究は、どちらの問いにも、少し意外な答えを返してきました。順にたどります。
形を作っているのは、殻ではなく「柔らかい膜」
まず意外なのが、卵のあの形を作っているのは、硬い殻ではないということです。殻ができる前の、柔らかい膜のほうです。
卵は、鶏のお腹のなかを一日ほどかけて下りながら、少しずつ作られます。黄身のまわりに白身がつき、次に「卵殻膜」という薄くやわらかい膜が包みます。卵の形が決まるのは、この膜の段階です。まだやわらかいうちに、まわりからの圧力で形が整い、そのあとで表面に殻の成分がついて、固まります。つまり、私たちが手にする硬い殻は、先にできあがった膜の形を、あとからなぞって固めたものなのです。

産まれるときの向きも面白いところです。卵は鶏の体のなかを、とがったほうを先にして下り、産む直前に子宮のなかでくるりと180度まわるようすが、X線で観察されています。まるいほうの端は、のちに気室(空気のたまる部屋)ができる、あの膨らんだ側です。
世界の卵を見わたすと、効いていたのは「どれだけ飛ぶか」
では、そもそもなぜ「たまご型」という、左右で違う形に落ち着くのか。その大きな手がかりが、2017年の研究で見つかりました。
研究チームは、世界の鳥およそ1,400種、約49,000個の卵を、専用のソフトで解析しました。卵の形を「まるいか細長いか」と「左右が対称か非対称か」の二つの物差しで整理し、何がその違いを生むのかを調べたのです。
意外だったのは、その顔ぶれです。餌でも、巣の場所でも、抱卵のしかたでもありませんでした。かわりに浮かび上がったのが、体や卵の大きさとならんで、その鳥の「翼の形」でした。翼が細長くとがっている鳥ほど、長い距離を効率よく飛べます。研究では、この翼の形を「どれだけ飛ぶ暮らしに向いた体か」を映す物差しに使いました。すると、長い距離をよく飛ぶ鳥ほど、卵も細長く、左右が非対称にとがっていたのです。反対に、あまり飛ばない鳥の卵は、まるくなる傾向がありました。たとえば、地上や樹上で過ごすことの多いフクロウの卵はゴルフボールのようにまるく、いっぽう空を長く飛ぶシギやウミガラスの卵は、洋なしのように片方がきゅっととがっています。

なぜ、飛ぶことと卵の形がつながるのでしょう。研究チームが挙げたのは、体のつくりです。上手に飛ぶ鳥は、空気の抵抗を減らすため、体がほっそりと流線型になっています。それにつれて内臓もコンパクトにおさまり、卵の通り道も細くなる。細い通り道を通すには、まんまるより、細長くとがった卵のほうが都合がよい——と考えられています。
では、あの「崖で落ちない」説は?
ここで、冒頭の「とがっているのは、巣から転がり落ちないため」という話に戻りましょう。
これは、崖の岩棚で子育てをするウミガラスについて、長く語られてきた説明です。とがった卵は転がると小さな円を描くので、狭い岩棚から落ちにくい、というものです。ところが、実際にウミガラスの卵を転がして調べてみると、思ったほど落ちにくくはなりませんでした。「転がって落ちない」という説明は、どうやら十分ではなかったのです。
かわりに見えてきたのが、卵を「どんな姿勢で抱くか」でした。ウミガラスの仲間やペンギンの仲間をくらべると、巣を作らず、むき出しの岩の上で、立った姿勢で卵を抱く鳥ほど、卵は洋なし型にとがり、おわん型の巣のなかで抱く鳥ほど、卵はまるくなっていました。抱卵の場所と姿勢のちがいだけで、形のばらつきの6割以上が説明できたといいます。とがった卵は、傾いた岩の上でも安定して動きにくい。ウミガラスがまさにその例です。つまり形を左右していたのは、「崖かどうか」そのものより、「巣を持たず、立って卵を抱くかどうか」だったのです。
結局、なにで決まるの?──見る範囲で、答えが変わる
ここで、二つの答えが並びました。世界中の鳥をまとめて見ると「どれだけ飛ぶか(翼の形)」、近い仲間だけをくらべると「どんな姿勢で卵を抱くか」。どちらが正しいのでしょうか。
答えは、どちらも正しいです。見る範囲がちがうと、いちばん目立つ理由も変わる。鳥ぜんたいを広く見わたせば翼の形が、近い仲間をならべてくらべれば抱卵の姿勢が、それぞれ強く効いて見えます。この二つは、対立しているように見えて、じつはぶつかっていない――見ている範囲がちがうだけだと、研究者たちは考えています。卵の形は、どれかひとつの理由ではなく、いくつもの力が重なって決まっているのです。
ニワトリの卵が「ほどほどの卵型」なわけ
最後に、私たちの卵に戻ります。ニワトリは、もともと地上で暮らす、あまり長く飛ばない鳥です。そして崖ではなく、地面のくぼみに作った巣に座って卵を抱きます。飛ぶ力から見ても、抱く姿勢から見ても、卵を極端にとがらせる理由がない。だからニワトリの卵は、シギやウミガラスのようにとがらず、フクロウのように完全にまるくもない、ほどよく左右の違う、あの見慣れた「たまご型」に落ち着いています。
この形には、暮らしのなかで役に立つ面もあります。とがった卵は、平らなところで転がしても、まっすぐ進まずにゆるく弧を描いて戻ってくる。まるいほうを下にすれば、ちょこんと立たせることもできます。パックのなかで卵がとがったほうを下にしておさまっているのも、この形だからです。
まとめ
- 卵のあの形を作っているのは、硬い殻ではなく、その前にできる柔らかい膜。殻は、先にできた膜の形をなぞって固まる。
- 卵は体のなかをとがったほうを先に下り、産む直前に子宮のなかで180度回転するようすが観察されている。
- 世界の約1,400種を調べた研究では、大きく見わたすとよく飛ぶ鳥ほど卵が細長くとがり、近い仲間どうしでは立った姿勢で卵を抱く鳥ほどとがる。いくつもの力が重なって形が決まる。
- 「崖で転がり落ちないため」という古い説は、転がり実験では確かめられなかった。
- ニワトリはあまり飛ばず、巣に座って卵を抱くので、卵はほどほどの卵型に落ち着いている。
次に卵を手に取ったら、その片方まるく片方とがった形を、少しだけ眺めてみてください。あの形は、硬い殻ではなく、殻ができる前の柔らかい膜が決めたもの。そして、鳥という生きものの飛び方や、卵の抱き方が、長い時間をかけて整えてきた形でもあります。
出典情報
- Mary Caswell Stoddard ほか(2017)「Avian egg shape: Form, function, and evolution」Science——世界の鳥およそ1,400種・約49,000個の卵を専用ソフトで解析し、卵の形(楕円性と非対称性)を鳥全体で最もよく説明したのが「飛翔能力(hand-wing index=翼の尖り具合から測る、長距離飛行への向き・不向きの指標。筋力ではなく翼と体のつくりを表す)」だったこと、よく飛ぶ鳥ほど細長く非対称な卵になること、その仕組みとして流線型の体で卵の通り道が細くなることが提案されていること、卵の形を決めるのが硬い殻ではなく柔らかい卵殻膜であること。DOI: 10.1126/science.aaj1945
- 卵が産まれる向き:卵は卵管をとがった端を先にして下り、産む直前に子宮内で約180度回転することが観察されていること(Bradfield 1951 ほか、X線による)。この回転がおきれば、まるい端から先に産まれることになる。ただし、とがった端と丸い端のどちらから先に産まれるかには諸説があり、鳥や品種・個体によっても違いがある。
- 抱卵の姿勢と卵の形(Birkhead ほか 2019, Ibis):ウミガラス類とペンギン類の30種を解析し、巣を作らず岩の上で立った姿勢で卵を抱く種ほど卵が洋なし型にとがること、抱卵する場所と姿勢だけで形の変異の6割以上を説明できることを報告。Stoddard 2017 の飛翔による説明は鳥全体で最も強い要因である一方、説明できる形のばらつきはごく一部で、生物学的な意味は限定的だとする批判もある(Deeming ほか)。これらについて Stoddard ほか(2019, Ibis)は、飛翔(鳥全体のスケール)と抱卵環境(近縁のグループ内のスケール)は着目する分類のスケールが違うだけで矛盾せず補い合うとした。卵の形を左右する要因の相対的な重みは、現在も議論が続いている。
- ウミガラスのとがった卵の機能:「転がると円を描いて岩棚から落ちにくい」という古典的な説は、Birkhead ほか(2017, Journal of Ornithology「not a rolling matter?」)が実際の卵で検証して疑問を示し、「岩棚で安定して動きにくい」ためとする見方を提案している(この点も研究者間で議論がある)。
卵が鶏の体内(卵管)を一日ほどかけて下る間に、白身・卵殻膜・卵殻の順に形づくられ、形は殻ができる前の卵殻膜の段階で決まることは、鳥の生殖と卵形成について広く知られた知見によります。