鶏論KEIRON

卵の中で、オスとメスはどう分かれるの?

卵から生命ができる 第4回

立派なとさかのおんどりと、小ぶりのめんどりを並べた実写写真。上に手書きの黒い文字で「オスかメスか、いつ・何で決まる?」と書かれている。

卵の中で、ヒヨコの体は、心臓が動きだし、翼や足の指が分かれ、と少しずつ組み上がっていきます。その途中のどこかで、その一羽は、朝に鳴くおんどりか、卵を産むめんどりへと分かれます。オスとメスは、卵の中で、いつ、どうやって決まるのでしょうか。ニワトリのやり方は、私たち人間とは、根本のところでちがっていました。

決めるのは、母親の卵

オス・メスが決まるのは、意外なほど早い。卵が受精した、その瞬間です。受精卵が受け継いだ性染色体の組み合わせで、どちらになるかが決まります。

人間と逆なのは、それを決めるのがどちらの親か、という点です。人間では、精子を送る父親の側が、生まれる子の性を左右します。ところがニワトリでは、その役目が母親にある。ニワトリの性染色体は Z と W の二種類で、母鶏がつくる卵は、Z を積んだものと W を積んだものに分かれます。どちらの卵に精子が入るかで、その子がオスになるかメスになるかが決まる——性を決めているのは、父親ではなく、母鶏の卵のほうなのです。ニワトリがどのように性をつくり分けるのかは、北海道大学など日本の研究チームも、いまなお解き明かしを続けています。

ニワトリの性染色体の説明イラスト。母親からはZの卵とWの卵の二種類、父親からはZの精子だけ。矢印で合わさり、Zの卵=オス、Wの卵=メスになる、と示す。手書きの黒い文字で「卵がZかWかで決まる」「ZZ=オス/ZW=メス(人と逆)」。

性は、体ではなく細胞に宿る

本当に驚くのは、その先です。決まった「オス」「メス」が、どうやって体じゅうに行きわたるのか。

人間をふくむ哺乳類で、それを担うのは、おもにホルモンです。精巣ができると男性ホルモンが分泌され、血流に乗って全身をめぐり、体を一つの性へと仕上げていく。いわば、上流からの一つの指令で、全身が同じ色に染まります。

ところがニワトリでは、そうではありませんでした。体をつくる細胞の一つひとつが、自分はオスか、メスかという情報を、はじめから抱えている。そして周囲のホルモンとは関わりなく、それぞれが自分の性に従って体をつくっていく。この、細胞ごとに性が宿る性質を、細胞自律的な性と呼びます。

これを裏づけたのが、2010年、英国エディンバラの研究チームが科学誌『ネイチャー』に報告した研究でした。性のちがう細胞を混ぜても、オスの細胞はメスの体の中でオスのまま、メスの細胞はオスの体の中でメスのままふるまう。鳥の体では、性はホルモンで一括に決められるのではなく、細胞の一つずつに書き込まれていたのです。

ニワトリの体の形の中を、青い細胞(オス)とピンクの細胞(メス)が混じり合ってうめている説明イラスト。体全体が2色の細胞のモザイクになっている。手書きの黒い文字で「細胞ひとつずつが、自分の性を持つ」「青=オス細胞/ピンク=メス細胞」。

半分がおんどり、半分がめんどり

細胞の一つずつに性が宿るのなら、こんな体もありうるはずです——もし一羽が、オスの細胞とメスの細胞の入りまじりでできていたら、どうなるか。

実際に、そういうニワトリがいます。さきの2010年の研究が調べたのは、体の片側がおんどり、反対側がめんどり、という三羽でした。片側は白い羽に大きな赤いとさか、脚には雄の証しである蹴爪。反対の側は茶色の羽で、とさかも小さく華奢。ちょうど体の真ん中で、左右がくっきり分かれています。こうした「半オス半メス」の個体は、およそ一万羽に一羽の割合で生まれます。

その体を調べると、やはり片側はほとんどがオスの細胞、反対側はほとんどがメスの細胞でした。細胞の一つずつが自分の性で体をつくるからこそ、一羽のなかに、おんどりとめんどりが同居できる。人間なら、ホルモンが全身をならしてしまうので、こうはなりません。

体の左右で見た目がちがう一羽のニワトリの説明イラスト。右半分は白い羽・大きな赤いとさかのオス、左半分は茶色の羽・小さなとさかのメス。真ん中でくっきり分かれている。手書きの黒い文字で「右はオス・左はメス」「1万羽に1羽」。

まとめ

卵の中でオス・メスが分かれるのは、受精のとき。母鶏の卵が積んだ性染色体で決まります。けれど人間と決定的にちがうのは、その先でした。人間は、ホルモンが全身を一つの性に染め上げる。ニワトリは、細胞の一つずつが自分の性を抱え、それぞれが自分の性で体をつくる。だからこそ、ごくまれに、半分がおんどり・半分がめんどり、という一羽が生まれます。オスかメスかは、体という単位でいちどに決まるのではなく、細胞という単位に、一つずつ刻まれているのです。


出典情報

  • Zhao, D. ほか(2010)Nature「Somatic sex identity is cell autonomous in the chicken」(英国・エディンバラ)——体の片側がおんどり・反対側がめんどりの雌雄モザイク鶏を三羽調べ、体がオスの細胞とメスの細胞の混じり合いでできていること、性のちがう細胞を混ぜても各細胞が自分の性のままふるまうことを示した。鳥の性が細胞ごとに内在する(細胞自律的な性)ことの根拠。
  • Nakata, T., … Kuroiwa, A.(2013)PNAS「Chicken hemogen homolog is involved in the chicken-specific sex-determining mechanism」——北海道大学の黒岩麻里らによる、ニワトリがどのようにオスをつくるか(性を決めるしくみ)についての研究のひとつ。鳥の性決定の解明が日本でも進んでいる例。
  • 雌雄モザイク(gynandromorph)についての一般的な報告——左右で見た目が分かれる「半オス半メス」のニワトリは、おおよそ一万羽に一羽ほどの割合でみられる、まれな例。ニワトリの性染色体は Z と W で、オスが ZZ・メスが ZW(人の XY とは逆で、メス側=卵が性を決める)。

本文中の〔受精のときに母鶏の卵の性染色体で性が決まる・鳥は細胞ごとに性が内在する(人はホルモンが体全体を性化する)・体の片側がおんどり反対側がめんどりの鶏が細胞の混じり合いでできている〕は、上記の研究や報告に基づきます。オス・メスの決まり方には、まだ分かっていない部分も残っています。

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