鶏論KEIRON

鳥インフルエンザって、そもそも何なの?

毎冬ニュースになる、あのウイルスは何者か

水辺に集まるカモなど水鳥の群れの実写写真。黒い手書きの文字で「鳥インフルって、そもそも何?」

毎年、冬が近づくと、ニュースで「鳥インフルエンザ」という言葉を何度も耳にします。「◯◯県の養鶏場で発生、△△万羽を殺処分」。言葉じたいは、すっかりおなじみです。

でも、そもそも鳥インフルエンザとは何なのか、と聞かれると、うまく答えられる人は多くないかもしれません。鳥がかかる、ただの風邪のようなもの? なぜ毎年、どこからともなくやってくるのか。人にもうつるのか。

正体を先に言ってしまいます。鳥インフルエンザのウイルスは、もとをたどれば、カモなどの水鳥が大昔から当たり前に持っている、ありふれたウイルスです。水鳥の体の中では、大きな騒ぎも起こさず、静かに同居しています。それがニワトリの群れに入ったとき、そしてまれに人の近くまで来たときに、大きな問題になる。これが、この病気の骨組みです。

このウイルスは何者で、どこから来るのか。なぜ水鳥では平気なのに、ニワトリでは大量死につながるのか。そして、人にはうつるのか。おなじみのわりに知られていない、その正体を順にたどります。

名前のとおり、「鳥の」インフルエンザ

鳥インフルエンザは、その名のとおり、鳥がかかるインフルエンザです。原因は「A型インフルエンザウイルス」。じつはこれ、私たちが冬にかかるインフルエンザと、同じ仲間のウイルスです。人のインフルエンザにもA型があり、毎年流行するのはたいていこのA型です。

ただし、同じ「A型」の仲間というだけで、まったく同じウイルスではありません。ここは取りちがえやすいところです。仲間ではあっても、型がちがい、うつりやすさも強さもまるで別物です。

インフルエンザウイルスの表面には、HAとNAという2種類のトゲのようなタンパク質が生えています。このHAとNAには、それぞれ種類があります(鳥やヒトで知られるもので、HAは16種類、NAは9種類)。その組み合わせで、「亜型」という細かい型が決まります。ニュースで聞く「H5N1」や「H7N9」は、この型の名前です。HAの5番とNAの1番の組み合わせなら、H5N1。名前じたいは、それだけの意味です。

ウイルスのふるさとは、水鳥

このウイルスの本来の持ち主は、ニワトリではありません。カモやハクチョウなど、水辺で暮らす野生の水鳥です。ウイルスにとって水鳥は、大昔から連れ添ってきた相手で、専門的には「自然宿主」(そのウイルスが自然界でふだん暮らしている生き物)と呼ばれます。

おどろくのは、水鳥はウイルスを持っていても、たいてい元気だということです。水鳥がもともと持っているタイプは、その多くが「低病原性」——つまり、宿主をあまり病気にしません。ウイルスは水鳥の腸で静かに増え、フンといっしょに外に出ます。そのフンが水辺の水を汚し、その水を口にした別の水鳥へ、また移っていく。こうしてウイルスは、宿主を弱らせることなく、水鳥たちのあいだをめぐっています。

湖に集まるカモの群れの実写写真に、手書きの文字で「ウイルスの本来の持ち主=水鳥」「持っていても元気」、フンから水へ広がる矢印に「フン→水でうつる」と書かれている。

ニワトリの中で、強い型に変わる

問題が起きるのは、このウイルスがニワトリなどの家きん(人が飼う鳥)の群れに入ったときです。

水鳥では大人しかったウイルスが、ニワトリの群れの中で感染をくり返すうちに、遺伝子が少しずつ変わり、鶏を高い確率で死なせる「高病原性」の型に変わってしまうことがあります。とくに、H5とH7という型に、この変化を起こすものが知られています。こうして生まれた「高病原性鳥インフルエンザ」は、感染したニワトリの4分の3以上を、10日ほどのうちに死なせてしまうほど強いものです。

ここで、一つだけ大事な注意点があります。「高病原性」というのは、あくまで鶏に対する強さのことで、人にとって危険という意味ではありません。鳥にどれだけ強いかと、人にどれだけうつりやすいか・危ないかは、まったく別の話です。ニュースで「高病原性」と聞くと身構えてしまいますが、これは鶏を高い確率で死なせる、という鶏の側の分類です。

鶏舎に並ぶニワトリの群れの実写写真に、手書きの矢印と文字で「水鳥では大人しいウイルスが」「ニワトリの群れの中で強い型に変わる」「高病原性」と書かれている。

水鳥のあいだをおとなしくめぐっていたウイルスが、ニワトリという新しい相手の中で、強い型に変わる。鳥インフルエンザが恐れられるのは、この入ってからの変わりようと、広がる速さのためです。だから、発生した養鶏場では、ウイルスを外に出さないうちに、その農場の鶏をすべて処分します。なぜ元気な鶏まで、そこまでするのか——その理由は鳥インフルエンザで、なぜ全羽殺処分するの?でくわしく扱っています。

なぜ、毎年冬にやってくるのか

鳥インフルエンザのニュースは、きまって秋から冬にかけて流れます。これにも、はっきりした理由があります。渡り鳥です。

冬になると、シベリアなど北の国から、越冬のためにたくさんの水鳥が日本へやってきます。その中に、ウイルスを持った個体がまじっている。渡り鳥がやってくる秋から、北へ帰っていく春までの時期と、日本で鳥インフルエンザが発生する時期は、きれいに重なります。ウイルスは、渡り鳥といっしょに海をわたってくるのです。

空を編隊で飛ぶ渡り鳥の群れの実写写真に、手書きの文字で「毎冬、北から渡り鳥が運ぶ」「秋に来て、春に帰る」と書かれている。

だから鳥インフルエンザは、どこかで一度きり起きて終わる病気ではありません。渡り鳥が来るかぎり、毎年冬にくり返しやってきます。近年はとくに発生が多く、日本では、多い年になるとひとつのシーズンに1,700万羽を超える鶏が処分の対象になったこともあります(数十万羽ですむ年もあり、年による差は大きいです)。農場は、防鳥ネットを張り、出入りのたびに消毒し、ウイルスを外から持ちこまないよう気を配っています。

人には、うつるのか

最後に、いちばん気になるところです。人には、うつるのか。

答えは、ふつうは、うつりません。鳥のウイルスと人のあいだには、「種の壁」と呼ばれる、うつりにくさの仕組みがあるからです。ウイルスが体の細胞に取りつくときの、いわば鍵と鍵穴の形が、鳥と人とで少しちがう。だから鳥のウイルスは、人の体にはうまく取りつけません。

ただし、「絶対にうつらない」ではありません。感染した鳥やそのフンに濃厚に触れたりした場合には、ごくまれに人にうつることがあり、そのときは重い症状が出ることもあります。H5N1やH7N9といった型で、海外ではそうした例が報告されています。それでも、人から人へ次々とうつる力は、今のところ確認されていません

心配されているのは、その先です。ウイルスが変化を重ね、いつか「人から人へ、次々とうつる型」に変わってしまうと、多くの人が免疫を持たない新型インフルエンザになりかねません。鳥インフルエンザは、まだ新型インフルエンザではありません。けれど、その芽になりうる。世界中で監視されているのは、この「もしも」に、できるだけ早く気づくためです。

スーパーの売り場に並ぶパック入りの卵と鶏肉の実写写真に、手書きの文字で「ふつうは人にうつらない(種の壁)」「食べてうつった報告なし・加熱で死ぬ」と書かれている。

なお、スーパーの卵や鶏肉を食べて、人が鳥インフルエンザにかかったという報告は、日本ではありません。感染した鶏や卵は市場に出る前に止められますし、ウイルスは加熱すれば死にます。ふだんの食事で心配する必要はない、とされています。

まとめ

  • 鳥インフルエンザの正体はA型インフルエンザウイルス。人のインフルエンザと同じ仲間だが、同じウイルスではない。「H5N1」などは、その細かい型(亜型)の名前。
  • ウイルスの本来の持ち主はカモなどの水鳥。水鳥は持っていても元気で、フンと水を介して、鳥どうしのあいだを静かにめぐっている。
  • それがニワトリの群れで変異し、鶏を次々に死なせる「高病原性」に変わることがある。ただし「高病原性」は鶏に対する強さで、人への危険とは別の話。
  • 渡り鳥が運ぶため、毎年冬にくり返しやってくる。
  • 人にはふつうはうつらない(種の壁)。まれにうつって重症化することはあるが、人から人へ広がる力は確認されていない。食べてうつった報告もない。監視されるのは、新型インフルエンザの芽を早く摘むため。

次に「鳥インフルエンザ発生」のニュースを目にしたとき。その言葉の奥に、水鳥がずっと持ち歩いてきたありふれたウイルスと、それを毎冬はこんでくる渡り鳥の姿を、思い出してみてください。毎年くり返されるあの出来事は、大きな自然の流れの一部でもあります。


出典情報

  • 農林水産省:「鳥インフルエンザについて知りたい方へ」/「我が国における鳥インフルエンザの分類」。本文の鳥インフルエンザがA型インフルエンザウイルスによる鳥の病気であること高病原性・低病原性の分類、低病原性のH5・H7亜型が高病原性に変異しうること渡り鳥の飛来時期と発生時期が重なること、シーズンによって殺処分の規模が大きく異なり近年の多い年には1,700万羽を超えたこと、による。
  • 農研機構(動物衛生研究部門):「A型インフルエンザウイルスとは」/「高病原性鳥インフルエンザとは」。本文のHA(16種類)とNA(9種類)の組み合わせで亜型が決まること自然宿主がカモなどの野生水禽で、水禽由来のウイルスは低病原性がほとんどであること「高病原性」は鶏に対する病原性の指標であって人に対する病原性とは関係がないこと、高病原性かどうかがHA(ヘマグルチニン)の性質で決まること、による。
  • 環境省:「高病原性鳥インフルエンザに関する情報」。本文のウイルスを渡り鳥(越冬のため飛来する水鳥)が国内に持ちこむこと、野鳥の監視が行われていることによる。
  • 厚生労働省:「鳥インフルエンザに関するQ&A」。本文の鳥インフルエンザは通常は人に感染しないこと、感染した鳥などへの濃厚な接触でごくまれに人に感染し重症化することがあること、人から人への持続的な感染は確認されていないこと鳥インフルエンザは新型インフルエンザそのものではないが、ウイルスが変異して人から人へ効率よく感染する力を得た場合に新型インフルエンザとなりうること、による。
  • 食品安全委員会:本文の鶏肉や卵を食べて人が鳥インフルエンザに感染したという報告はないこと、ウイルスは加熱により死滅すること、鳥と人とで細胞の受容体(ウイルスの取りつく「鍵穴」)が異なり感染しにくいことによる。

水鳥の体内でウイルスが腸で増えてフンとともに排出され、水を介して鳥のあいだで広がることは、環境省・農研機構などの公的情報にもとづく、広く知られた知見です。発生した養鶏場でなぜ元気な鶏まですべて処分するのかは、鳥インフルエンザで、なぜ全羽殺処分するの?でくわしく扱っています。

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