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『地鶏』って何?

ブランドでも産地でもない、その線引きとは

茶色い地鶏の実写写真。手書きの文字で「地鶏って何?」

スーパーの鶏肉売り場に、「○○地鶏」と書かれたパックが並んでいます。ふつうの鶏肉より少し高く、「放し飼いで育てた、ちょっといい鶏」といったイメージで語られます。でも、「地鶏」がどんな鶏を指すのか、その線引きははっきり決まっているのでしょうか。

「地鶏」は、雰囲気で呼ばれているわけでも、ブランド名でもありません。国がルールを決めた呼び名です。しかも「地鶏」という言葉には、お店に並ぶ食用の鶏とは別に、もう一つの顔もあります。

「地鶏」は、法律で決まっている

食用として「地鶏」を名乗るには、農林水産省が定めた「地鶏肉の日本農林規格(地鶏肉JAS)」の条件を満たす必要があります。1999年に作られた、れっきとした国の規格です。条件は次の三つ。

  • 在来種の血を50%以上引いていること
  • ふ化から75日以上育てること
  • 28日齢からあとは平飼いで、1㎡あたり10羽以下で育てること

つまり「地鶏」かどうかは、産地やブランドではなく、鶏の種類と育て方で決まります。スーパーで「○○地鶏」と書かれた鶏肉は、この条件を満たしています。

育てる日数を見ると、地鶏の特徴がよく分かります。スーパーで多い若どり(ブロイラー)は40〜55日ほどで出荷されますが、地鶏は最低でも75日。およそ倍の時間をかけて、地面を歩ける環境でじっくり育てます。

平飼いの鶏舎で地面をつつく数羽の茶色い地鶏の実写写真。黒い手書きの文字と矢印で「在来種の血 50%以上」「ふ化から75日以上」「平飼い 1㎡に10羽以下」と注釈

「在来種」って、どんな鶏?

地鶏JASの土台になるのが「在来種」です。明治時代までに日本に定着した鶏の品種のことで、地鶏JASは全部で38品種を在来種として定めています。この38品種は、大きく三つの層に分かれます。

  • 江戸時代までに定着した純血の品種(29品種) チャボ、烏骨鶏(ウコッケイ)、軍鶏(シャモ)、東天紅鶏、土佐のオナガドリ など
  • 在来種と外国の品種をかけ合わせた合成品種(6品種) 名古屋種(名古屋コーチン)、三河種、熊本種、土佐九斤 など
  • 外国から輸入された品種(3品種) ロードアイランドレッド、横斑プリマスロック、コーチン

ここで意外なのが、在来種「だけ」で育てなくてよいという点です。血が50%入っていれば、残り半分は成長の早い外国品種をかけ合わせてかまいません。たとえば有名な比内地鶏は、在来種の比内鶏に、アメリカ生まれのロードアイランドレッドをかけ合わせた鶏です。

この「半分でいい」という決まりには、ねらいがあります。純血のまま守ろうとすると、成長が遅く数も増えにくいため、商売として続けるのが難しい。外国品種をかけ合わせて育てやすくすれば、農家は在来種の血を引いた地鶏を売り続けられます。純血を陳列する博物館ではなく、使いながら守るという考え方です。

もう一つの「地鶏」——国が守る天然記念物

食用の地鶏とは別に、「地鶏」には国の文化財という顔があります。古くから受け継がれてきた日本鶏のうち、17件が国の天然記念物に指定されています。

なかでも、高知県生まれの土佐のオナガドリは、一段上の「特別天然記念物」です。特別天然記念物は、国の天然記念物およそ1,000件のうち、世界的・国家的に価値が特に高いと認められた75件ほどだけ。トキやニホンカモシカと同じ格で、ニワトリではオナガドリだけです。

見た目も独特です。雄の尾羽は一年じゅう生え替わらずに伸び続け、長いものでは記録で10メートルを超え、最長で約13メートルに達したものもあります。

高知とのつながりも深く、その17件のうち6件が高知県にゆかりを持ちます。一つの県としては全国でいちばんの集中ぶりで、高知が古くから鶏の文化が盛んな土地だったことがうかがえます。

長い尾羽を地面まで垂らした白い雄のオナガドリの実写写真。黒い手書きの文字で「ニワトリで唯一の“特別”天然記念物・高知生まれ」

在来種を絶滅から守る、二つの備え

在来種は、戦後にブロイラーや採卵用の鶏が主流になって数を減らし、絶滅が心配される品種もあります。これを守るため、現場では二つの取り組みが進んでいます。

一つは凍結精液。農研機構(NARO)が、14品種の地鶏の精液を凍らせて保管しています。万一その品種が絶滅したり、飼う農家が激減しても、ここから復元できる仕組みです。

もう一つは遺伝子を手がかりにした選抜です。在来種は成長が遅く、そのままでは採算が合いにくい。そこで、成長の速さに関わる遺伝子の目印をたよりに、速く育つ個体を選び出す「マーカーアシスト選抜」が実用化されています。在来種らしさを保ったまま、育てやすさを高める試みです。

DATA

地鶏は、国産の鶏肉の約1%

日本で食べられる鶏肉のうち、地鶏JASの基準に合うものは全体の約1%にとどまります(日本食鳥協会の概算)。残りの大半は若どり(ブロイラー)です。長く手をかけて育てるぶん希少になりますが、地鶏を選ぶ人が、その品種を支えているとも言えます。

「地鶏」でも、味は同じではない

「地鶏」と書いてあれば味も保証されている——そう受け取られがちですが、地鶏肉JASは、味を保証する規格ではありません

JASが定めているのは、種類と育て方の条件だけ。味そのものは品種・餌・育つ環境で変わるので、同じ「地鶏」ラベルでも、比内地鶏・名古屋コーチン・薩摩地鶏では、それぞれ別の食材といっていいほど違います。

これは裏を返せば、品種ごとの個性が楽しめるということです。「地鶏」は美味しさの保証書ではなく、じっくり育てた在来種の鶏という“素性”の証明。だから、「○○地鶏」の品種名まで見ると、選ぶ楽しみが広がります。

種類のちがう数種類の地鶏肉(焼いた串と生肉)を並べた実写写真。黒い手書きの文字で「同じ“地鶏”でも、味は品種しだい」

まとめ

  • 「地鶏」は雰囲気やブランドではなく、国が決めた呼び名。在来種の血50%以上75日以上平飼いが条件。
  • 「地鶏」には二つの顔。お店に並ぶ食用の地鶏JAS(在来種38品種が土台)と、国が守る天然記念物17件(うちオナガドリだけが特別天然記念物)。
  • 在来種は純血にこだわらず半分でよいルールと、凍結精液・遺伝子選抜で、「使いながら守る」段階に入っている。
  • 地鶏ラベルは味の保証ではなく、品種ごとに個性がある。「○○地鶏」の品種名を見ると、味の見当もつく。

次にスーパーで「地鶏」の文字を見かけたら、その二文字が、ふつうの鶏とは違う血筋と育て方の証だと分かります。


出典情報

主要原著(本記事の中心)

  • 原著タイトル:Current Status and Prospects of Genetic Resources of Native Chickens of Japan
  • 著者:Hideaki Takahashi
  • 掲載誌:Animals(MDPI)15(12), 1703/発表:2025年6月
  • DOI10.3390/ani15121703原文MDPIで全文を読む(英語)
  • ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)

本記事のうち国の天然記念物17件、地鶏JAS在来種38品種の3層構造(29/6/3)、在来種の定義、地鶏JASが風味を保証しないこと、比内地鶏=比内鶏×ロードアイランドレッド、NARO凍結精液14品種、マーカーアシスト選抜(成長改良)は、この原著によります。

補足資料(各テーマの出典)

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