
スーパーでは、卵のパックと鶏肉のパックが、少し離れた売り場に並んでいます。どちらも「ニワトリ」から来たもの。だとすれば、卵を産んでいた鶏が年をとって、あの鶏肉になる——そう思っている人は多いかもしれません。
ところが、実際はちがいます。卵をとるための鶏と、肉にするための鶏は、いまではまったく別の品種です。同じニワトリだったものが、20世紀のあいだに、卵用と肉用の二手にはっきり分かれた。同じ祖先から、性格のちがう二種類が、つくり分けられたのです。
なぜ一羽で両方できないのか。いつ、どうやって分かれたのか。たまごの鶏とお肉の鶏の、分かれ道をたどります。
昔は、一羽で卵も肉もまかなっていた
ニワトリの主な祖先は、東南アジアにすむセキショクヤケイという野鳥です。これを人が飼いならしたのが、いまのニワトリのはじまりとされます。卵をとる鶏(採卵鶏)も、肉にする鶏(ブロイラー)も、たどれば同じこの鳥にいきつきます。生きものとしては、どちらも同じ「ニワトリ」です。
そして、ついこのあいだ——およそ1960年代ごろ——まで、世界の多くのニワトリは、卵も肉も一羽でまかなう「卵肉兼用(らんにくけんよう)」の鶏でした。飼えば毎日いくつか卵を産み、産まなくなれば肉として食べる。一羽で二役をこなすのが、あたりまえだったのです。
いまのように「卵の鶏」と「肉の鶏」がくっきり分かれたのは、この半世紀ほどの、ごく最近のできごとです。
肉の鶏は、半世紀でつくられた
その分かれ道を大きく動かしたのが、戦後アメリカの「明日のニワトリ(Chicken of Tomorrow)」という品評会でした。1948年、大手スーパーと農務省が手を組み、胸やももの張った、肉づきのいい鶏を広く募りました。
この品評会をきっかけに、肉専用の鶏=ブロイラーの作り込みが、各地で一気に進みます。土台になったのは、がっしりした白色コーニッシュと、体の大きな白色プリマスロック。この二つの系統の血が、いま世界で食べられている鶏肉のほとんどに流れています。
作り込みは急ピッチでした。品評会のころ目標とされたのは「12週間で約1.8キロ」。いまのブロイラーは、その半分ほどの約50日で2〜3キロに育ちます。日本でスーパーに並ぶ若どり(ブロイラー)も、生後約50日で出荷されます。ヒヨコからわずか2か月足らずです。

なぜ、一羽で両方できないのか
ここで、素朴な疑問がわきます。卵もよく産み、肉もよくつく——そんな鶏を、なぜつくらないのでしょうか。
答えは、体のつくりとして、両立がむずかしいからです。
卵をたくさん産む方向と、体を大きくする方向は、品種改良のうえでたがいに引っぱり合います。片方を強めると、もう片方が弱まりやすい。餌から得られるエネルギーにもかぎりがあって、体を大きくすることに多く回せば、そのぶん卵に回せる分は減ります。両方をいっぺんに伸ばすのは、なかなかうまくいかないのです。
だから、卵をたくさん産ませるには、むしろ体が小さいほうが好都合です。体を保つのに使う餌が少なくてすむぶん、卵に回せるからです。そうして卵の鶏は、小柄で身軽な体に選ばれてきました。卵の代表的な品種白色レグホンがほっそりして見えるのは、そのためです。
どれくらい体がちがうのか。生後42日でくらべると、肉用のブロイラーは、採卵鶏の約5倍の重さになります。胸の肉の量にいたっては4倍以上。いっぽう卵の数では、採卵鶏が年に約300個産むのに対し、肉専用の鶏のメスは年に130個あまりにとどまります。同じ祖先から出発して、ここまで正反対の体になりました。
だからこそ、むりに一羽で追うより、卵は卵の鶏に、肉は肉の鶏にまかせて、別々に選び分けたほうが、それぞれをずっと高められる。これが、ニワトリが二手に分かれた理由です。
卵を産み終えた鶏は、どこへ行く?
「卵の鶏」は、産む卵の色でも品種が分かれます。白いたまご(白玉)を産むのは白色レグホン系、茶色いたまご(赤玉)を産むのはボリスブラウンなど、ロードアイランドレッドの血を引く品種です。殻の色は品種で決まるもので、中身の質とは関係ありません。
では、卵を産み終えた採卵鶏は、どうなるのでしょうか。あの鶏肉になる——と思いきや、そうではありません。1〜2年ほど産んで役目を終えた鶏は「廃鶏(はいけい)」と呼ばれ、肉がかたいため、多くはミンチにされて、加工肉やスープ、だしの原料になります。やわらかい若どり(ブロイラー)とは、行き先からしてちがうのです。私たちも、加工食品のどこかで、廃鶏の肉に出会っています。「卵の鶏」と「肉の鶏」は、生まれてから食卓に届くまで、ずっと別の道を歩みます。
分かれたことで生まれた、オスのひなの問題
二手に分かれたことは、思わぬ問題も生みました。採卵鶏のオスのことです。
卵を産むのはメスだけ。採卵鶏のオスは、当然ながら卵を産みません。かといって、肉用に改良された品種ではないので、育ててもブロイラーのようには肉がつかず、採算が合わない。こうして、採卵鶏のオスのひなは、生まれてすぐに処分されています。その数は、日本だけで年に約1億1000万羽にのぼると推計され、国会でも取り上げられました。
卵と肉をきっぱり分けて効率を高めた裏で、こうした問題が生まれた。ただ近年は、卵がかえる前に、殻のなかでオスかメスかを見分ける技術の開発が各国で進んでいます。オスとわかった卵はかえさずにすむため、この問題をやわらげられると期待されています。

「いいとこ取り」の鶏を、もう一度
効率を追って卵と肉に分かれたニワトリですが、近年はふたたび卵肉兼用の鶏を見直す動きもあります。オスも育てて肉にできれば、オスのひなを処分せずにすむからです。国内でも、卵も肉もそこそこ得られる兼用鶏を商品化しようという取り組みが、自治体などで始まっています。専用の鶏ほどの効率はなくても、一羽をむだにしない育て方として注目されています。
早見:三つのニワトリ
- 卵用種(採卵鶏):卵をたくさん産むように改良。小柄で身軽。白色レグホン(白玉)、ボリスブラウン(赤玉)など。年に約300個。
- 肉用種(ブロイラー):速く大きく育つように改良。約50日で2〜3キロ。白色コーニッシュ×白色プリマスロックが土台。
- 卵肉兼用種:一羽で卵も肉もまかなう昔ながらの鶏。名古屋コーチンなど、一部の在来の品種に受け継がれる。効率より両立。
まとめ
- スーパーの卵と鶏肉は、別々の品種から来ている。同じセキショクヤケイを祖先にもつニワトリが、20世紀に卵用(採卵鶏)と肉用(ブロイラー)へ分かれた。
- 分かれたのは、卵をたくさん産むことと、体を大きくすることが、品種改良のうえで引っぱり合うから。卵に振れば体は小柄に、肉に振れば産卵は減る。生後42日で、ブロイラーは採卵鶏の約5倍の重さになる。
- 卵を産み終えた採卵鶏(廃鶏)は加工用へ。分化は効率を生む一方、採卵鶏のオスのひなという問題も生み、ふ化前の雌雄判別などの解決が進んでいる。
次にスーパーで卵と鶏肉を手に取ったら、それぞれが、卵のために・肉のために、別々に育て上げられた鶏だと思い出してみてください。同じ「ニワトリ」から分かれた、二つの道の先にあるものです。
出典情報
この記事は特定の一本の論文ではなく、査読論文・公的機関・業界団体の情報をもとにまとめています。
- 採卵鶏とブロイラーの分化、体の差(生後42日でブロイラーは採卵鶏の約5倍・胸肉は4倍以上/採卵鶏は年約300個、純血の肉用系メスは1年で平均132.4個):Xu et al. “Phenotypic divergence between broiler and layer chicken lines is regulated at the molecular level during development”(PMC)
- 卵をたくさん産む方向と体を大きくする方向が育種のうえで引っぱり合うこと(負の相関・生活史形質のトレードオフ):家禽の育種に関する研究(Genetics Selection Evolution、Springer)
- 「明日のニワトリ」品評会(1948年・大手スーパーのA&Pと米農務省)とブロイラーの成立、白色コーニッシュ・白色プリマスロックの寄与:National Geographic、Chicken of Tomorrow Contest(Wikipedia)
- 日本のブロイラー(若どり)は生後およそ50日で出荷:日本食肉消費総合センター「お肉の情報」
- 採卵鶏の代表的な品種(白玉=白色レグホン、赤玉=ボリスブラウンなどロードアイランドレッド系):農林水産省「新鮮なたまごを届けてくれるニワトリ」、日本養鶏協会
- 卵肉兼用種が1960年代ごろまで主流だったこと:家禽育種の歴史に関するレビュー(IntechOpen「Selection Methods in Poultry Breeding」)
- 廃鶏(産卵を終えた採卵鶏)は肉がかたく、ミンチ・加工肉・だし等に利用される:畜産ZOO鑑「廃鶏とその利用」
- 採卵鶏のオスのひなの処分(日本で年およそ1億1000万羽・2022年の国会答弁で示された推計)と、ふ化前の雌雄判別技術の開発:2022年 参議院農林水産委員会での答弁、徳島大学・セツロテック(ふ化前に雌雄を判別する手法の開発)
- 卵肉兼用鶏を見直す近年の取り組み:埼玉県「卵肉兼用鶏の販売対策について」