
白いニワトリがいます。茶色いニワトリもいます。真っ黒なもの、白と黒のしま模様のもの——ニワトリの羽の色は、思いのほかさまざまです。同じ「ニワトリ」なのに、なぜこんなに色が分かれるのでしょうか。
「種類が違うから」。それはそうですが、その”違い”の中身は何なのでしょう。黄身の色のように、餌で変わるものなのでしょうか。
羽の色を決めているのは、たった2種類の色素と、それをどう置くかの遺伝です。そして黄身の色とはちがい、羽の色は餌ではほとんど変わりません。生まれたときに、ほぼ決まっています。
もとをたどれば、ニワトリの祖先は、みな同じような色をしていました。それが家畜になる過程で、さまざまな色へ枝分かれしました。2種類の色素とは何なのか、そして、なぜ品種によって色がこれほど分かれたのか。白い羽の正体まで、順にたどります。
色のもとは、2種類の色素

羽の色のもとは、2種類の色素(メラニン)です。ひとつは黒っぽい色素、もうひとつは赤っぽい色素。
- 黒から褐色をつくるユーメラニン
- 赤から金色をつくるフェオメラニン
どちらも、人の髪や肌を染めているのと同じ色素です。この2色を、羽の1枚1枚にどれだけ・どんな模様で置くか。その配り方で、白から黒、赤褐色からしま模様まで、羽の色が決まります。
黄身の色が、餌にふくまれる色素(カロテノイド)で濃くなったり薄くなったりするのに対し、羽の色素は鶏の体がつくります。だから餌ではなく、生まれつきの遺伝で決まります。ごく一部、餌の色素が羽にのって黄色みが変わる鶏もいますが、品種を分けている色の主役は、このメラニンです。羽の色は、その鶏がどんな血を引いているかのしるしです。
もとは、みんな同じ色だった

ニワトリの主な祖先は、東南アジアの森にすむセキショクヤケイという野鳥です。これを人が飼いならしたのが、いまのニワトリのはじまりとされます。
野生のセキショクヤケイは、どの個体もよく似た色をしています。オスは首や背が赤金色、胸から腹は黒、尾は緑がかった光沢。メスは全体に地味な褐色のまだら模様です。
森でくらす鳥にとって、目立たない色は、身を守る色です。地味なメスは、巣で卵を抱くあいだ、枯れ草にまぎれます。天敵に見つかりにくくなります。もし真っ白な個体が生まれても、森ではすぐに見つかって食べられてしまう。だから野生では、羽の色はみんな似たようなところに落ち着きます。
なぜ、品種でこんなに色が増えたのか
あの色とりどりのニワトリは、どれも家畜になってから生まれました。
人に飼われるようになると、天敵に食べられる心配が減ります。すると、野生では生き残れなかった色——真っ白や真っ黒——の鶏も、ふつうに育つようになりました。
さらに人は、珍しい色や、見分けやすい色を選んで増やしました。羽の色を変える遺伝子の変化(変異)が現れるたびに、野生なら淘汰されたはずのそれを、人が残し、掛け合わせてきました。
いま品種ごとに色が違うのは、この「野生の一様な色から、人が枝を広げた」結果です。羽の色のカタログは、家畜化の歴史そのものだといえます。
白いニワトリには、2通りの白がある

真っ白なニワトリにも、仕組みのちがう2通りの「白」があります。見た目は同じでも、体の中で起きていることは違います。
ひとつは、色素を止めているだけの白。白色レグホンの白が、これです。黒い色素を羽に出さないようにする遺伝と、赤い色素を抑える遺伝がそろって、真っ白に見えます。ただ、色素をつくる力そのものは残っています。だから、こうした遺伝子を片方だけ受けついだ鶏では、羽に黒い差し毛(小さな黒い斑)がにじむことがあります。
もうひとつは、色素をそもそもつくれない白。色素をつくる酵素が、遺伝でうまく働きません。こちらは色のもとがつくられないので、黒い差し毛もにじみません。
見た目は同じ白でも、片方は色を止めている白、もう片方は色をつくれない白。羽の白さは、ひとつの理由から来ているとは限らないのです。
しま模様は「途中で色が止まる」
白と黒のしま模様——横斑(おうはん)と呼ばれます。アメリカ生まれの横斑プリマスロックなどが、この模様の鶏です。羽をよく見ると、黒い帯と白い帯が交互に並んでいます。
これは、1枚の羽が伸びていく途中で、色素をつくる細胞が、いったん休んでは、また働くのを繰り返すために起きます。色素が働いているあいだに伸びた部分は黒く、休んでいるあいだに伸びた部分は白い。羽の中で色をつけたり止めたりするから、しま模様になります。
この模様も遺伝で決まっていて、しかもその遺伝は、オスとメスで伝わり方が違います。オスは横斑の遺伝子を2つまで持てるため、白い帯が広く、全体に淡く見えることが知られています。
羽の色の、見取り図
ここまでを、ひとつにまとめます。羽の色は、次のように分けられます。
- 黒・褐色:黒っぽい色素(ユーメラニン)が多い
- 赤・金・淡い褐色(バフ):赤っぽい色素(フェオメラニン)が多い。名古屋コーチンの淡い褐色もこの系統
- 白(色を止めている):色素をつくる力はあるが、羽に出さない。白色レグホン
- 白(色をつくれない):色素をつくる酵素が、うまく働かない
- しま模様(横斑):羽が伸びる途中で、色素が止まったり働いたりを繰り返す
見た目はずいぶん違いますが、もとは2種類の色素を「どれだけ・どこに置くか」の遺伝のちがいです。
まとめ
- 羽の色は、2種類の色素で決まる:黒〜褐色のユーメラニンと、赤〜金のフェオメラニン。
- 色のもとは、餌ではなく生まれつき(遺伝):黄身の色は餌で変わるが、羽の色のもと(メラニン)は変わらない。
- もとは、みんな同じ色だった:野生のセキショクヤケイは保護色。家畜になって天敵の淘汰がゆるみ、人がさまざまな色を選んで広げた。
- 白にも仕組みがある:同じ白でも「色を止めている白」と「色をつくれない白」がある。
次にスーパーで白い卵を手に取ったら、それを産んだのは、たいてい白色レグホン系の白いニワトリです。その羽の白は、色素をつくれないのではなく、つくる力をもったまま、あえて表に出していない白かもしれません。
出典情報
- 羽の色をつくる2種類のメラニン(ユーメラニン=黒〜褐色/フェオメラニン=赤〜金):動物の毛・羽・皮膚の色に共通する、生化学で広く知られた知見。
- 白色レグホンの白=黒い色素を止める遺伝(優性白)と赤い色素を抑える遺伝(銀)がそろって白くなる/もう一方の白=色素をつくる酵素がうまく働かない:優性白は PMEL17(黒い色素の”入れ物”をつくる遺伝子)、もう一方は チロシナーゼ(色素をつくる酵素)の変異によることが、鶏の遺伝研究で示されています。優性白は黒い色素(ユーメラニン)だけを抑えるため、真っ白になるには、赤い色素を抑える別の遺伝(銀)も必要です(Kerje ら 2004、Chang ら 2006 ほか)。
- しま模様(横斑)=羽が伸びる途中で色素をつくる細胞が休止・再開を繰り返す/伝わり方がオスとメスで違う(オスは遺伝子を2つ持てるため白い帯が広い):横斑は Z 染色体上の CDKN2A 遺伝子の変異によることが示されています(Hellström ら 2010)。
- ニワトリの主な祖先=セキショクヤケイ/野生は保護色で、家畜化と人の選択で羽色が多様化した:家禽の起源に関する一般的な知見(Lawal & Hanotte 2021 ほか)。
- 羽の色の主役はメラニンで、餌では変わらないこと(ごく一部の品種で、餌の色素が羽の黄色みに影響する場合はある)、白色レグホン系が日本の白い卵の多くを産むこと、名古屋コーチンの羽色が淡い褐色であることは、養鶏・品種の一般情報(家畜改良センター等)。