
スーパーの卵売り場で、ふと手が止まることがあります。茶色い卵と白い卵、「特選」や「平飼い」と書かれたパックと、普通のパック。同じくらいの値段なら、できればいちばん新しくて、状態のいい卵を選びたい——そう思って、私たちはつい、殻の色やパッケージの文字を見比べます。
でも、その「見た目」から、卵の新しさ(鮮度)は読み取れるのでしょうか。じつは、売り場で卵の状態をいちばん正直に語っているのは、殻の色でもパッケージの言葉でもなく、パックに印字された日付です。
イタリア・パドヴァ大学の研究者が、白から濃い茶色まで、さまざまな色の卵を産む4タイプの鶏をそろえ、産んだ卵を3週間追いかけました。そこで卵の中身の鮮度を左右していたのは、殻の色でも、表示でもなく、たった一つ——どれだけ日が経っているかでした。
なぜ、日付がそこまで効くのか。茶色い卵と白い卵で、中身は本当に違うのか。売り場で何を見て、何を見なくていいのか。卵を3週間追ったデータに、その答えがあります。
卵パックには、意外と多くの情報がある
手に取ったパックを、ぐるりと眺めてみてください。賞味期限、保存方法(多くは「10℃以下で保存」)、産地、品種や系統、飼育方法。小さな文字で、思いのほか多くのことが書かれています。パックによっては、採卵日まで載っています。
そして直感は、たいてい派手なほうに引かれます。色の濃い茶色い殻は、なんとなく良い卵に見える。「平飼い」や「特選」と書かれていれば、こだわりを感じます。でも、その印象は中身の鮮度や品質と、本当につながっているのか。逆に、地味で見過ごしがちな一行に、決定打が隠れていないか。
卵の「新しさ」をはかる物差し
研究の話に入る前に、言葉をひとつだけ覚えてください。ハウユニット(HU)です。1937年にアメリカのレイモンド・ハウが考えた数値で、ざっくり言えば「卵を割ったときの、卵白の盛り上がりの高さ」を卵の重さで補正したもの。値が大きいほど、卵白がしっかり盛り上がっている=新しい、ということです。
産みたての卵は、卵白がこんもりと高く盛り上がります。古くなると、それが平たく広がっていく。生卵を割って「卵白がさらさら広がる」と感じるとき、私たちはこの数値の変化を目で見ています。卵パックにこの数値は書かれていませんが、日付から見当がつきます。日本のパックに必ずあるのは賞味期限。これは、卵を産んだ(パック詰めした)日に一定の日数を足して決まります。だから賞味期限が先(遠い)のものほど、産まれてからの日が浅い=卵白がよく盛り上がる、と読めるのです。採卵日が書いてあるパックなら、もっと直接的です。
卵白の盛り上がり
ハウユニットのもとになるのが、割ったときに濃厚卵白(卵黄のまわりの、もったりした部分)が盛り上がる高さです。産みたてはしっかり高く、室温に置くと数日〜数週間でだんだん低くなります。目玉焼きが丸くまとまるか、白身が広がってしまうか——その差も、この高さから生まれます。
どうやって調べたのか
研究では、イタリアの在来種2タイプと、商業用のハイブリッド2タイプ、あわせて4タイプの鶏を同じ環境で飼いました。産む卵の殻の色は、白から濃い茶色までさまざまです。
- 在来種:淡い茶色の卵を産むタイプと、濃い茶色の卵を産むタイプ
- 商業用ハイブリッド:濃い茶色の卵を産むタイプと、白い卵を産むタイプ
全タイプを同じ屋外飼育・同じ餌で育て、産んだ卵を室温(21℃)で1日・1週間・2週間・3週間保存。それぞれの時点で、卵白の盛り上がり(ハウユニット)や殻の厚み、重さの減り方を測りました。
いちばん効いたのは「日数」だった
結果は、あっけないほど明快でした。どのタイプの卵も、日が経つほど卵白の盛り上がりは確実に落ちていく。これが、4タイプすべてに共通する、いちばん大きな変化です。
この数値(ハウユニット)は、大きいほど卵白がよく盛り上がっている=新しいという合図です。産みたては、どのタイプも85〜90と高め。ところが室温に3週間置くと、そろって60台まで落ち込みました。卵白のハリが、それだけ失われたということです。しかも、品種や殻の色による卵どうしの違いはごくわずか。「いつ産まれたか」の差のほうが、はるかに大きいのです。
つまり、売り場で隣り合う2つのパックを見比べたとき、印字された賞味期限が1〜2週間違えば、それは中身としてはっきり別物の卵。殻の色の違いとは、比べものになりません。
白い卵と茶色い卵、中身は同じだった
では、肝心の「殻の色」はどうだったのか。ここが、この研究のいちばん意外なところです。
産みたての卵白の盛り上がり(ハウユニット)を比べると、商業用の白い卵と茶色い卵が、ほとんど同じ(どちらも約90)。在来種の淡い茶色と濃い茶色の卵も、ほぼ同じ(どちらも約85)でした。差を分けていたのは殻の色ではなく、商業用か在来種か、という品種の違い。殻の色は、中身の良し悪しを何も語っていなかったのです。

殻の色は、親鶏の品種で決まる遺伝の個性です。鮮度や品質とは独立した、いわば「見た目だけの個性」。茶色い卵のほうが質がいい、白い卵は見劣りする——そうした言い伝えに、データの裏づけはありませんでした。
ただし、品種によって「日もち」は変わる
副次的な発見がひとつ。濃い茶色の卵を産む2タイプは、殻がやや厚めで、保存中の水分の抜けがわずかに少ない傾向がありました。殻には目に見えない無数の小さな穴があり、薄い殻ほど水分や空気が出入りしやすいためです。
ただし、これも「色」の効果ではありません。同じ濃い茶色でも、商業用のタイプは、卵白の盛り上がりが白い卵と同じくらい大きく落ちました。3週間たっても安定して鮮度を保ったのは、濃い茶色の卵を産む在来種の1タイプだけ。日もちを決めていたのは殻の色ではなく、品種ごとの殻の厚みや質だったわけです。
「日もちする卵」は、品種にひそむ
保存しても落ちにくい卵が、品種によって存在します。研究では、ある在来種の卵が、3週間たってもよく鮮度を保ちました。日本の売り場で品種から選べる機会は多くありませんが、「どの鶏が産んだか」も、卵選びの隠れた軸になり得ます。
なぜ、古い卵は水っぽくなるのか
新しい卵を割ると卵白がこんもり盛り上がり、古い卵では平たく広がる。この差は、殻の小さな穴で起きています。

保存中、その穴から二酸化炭素がじわじわ抜け、かわりに空気が入ります。すると卵白はだんだんアルカリ性に傾き、卵白の網目構造を支えているタンパク質(オボムチン)の結びつきがゆるんで、卵白が水のようにさらさらと流れるようになります。薄い殻ほどこの出入りが速く、鮮度の落ちも速い——殻の厚みが日もちに効くのは、このためです。
「ザラザラした卵が新しい」も、いまは通じない
見た目のなかで、昔からよく言われてきたのが殻のザラつき・つやです。産みたての卵は、クチクラ層という薄い膜に覆われ、ややマットでザラついて見えました。雑菌の侵入を防ぐ天然のバリアで、古くなるとはがれてつるりとしてくる——だから「ザラザラ=新しい」が、ひとつの目安になっていました。
ところが、いまの日本のスーパーに並ぶ卵は、出荷前に洗卵されて、この膜が落とされています。つまり最初からつるりとしていて、つややザラつきで新しさは判断できません。かつて使えた手がかりが、流通の仕組みのなかで消えているのです。
もうひとつの鍵は「温度」
卵白の盛り上がりを落とす犯人は、第一に日数、そして温度です。今回の研究は室温(21℃)で3週間置いてこれだけ落ちました。温度が高いほど、卵の中の反応は速く進みます。
ここで、日本ならではの事情があります。日本のスーパーが卵を冷蔵せず常温で並べているのは、手抜きではありません。冷えた卵を暑い屋外へ持ち出すと殻の表面に結露し、その水分が殻の穴から雑菌を呼び込むおそれがあるため、温度差を避けてあえて常温で売っているのです。
つまり、アメリカのように冷蔵棚で売っていれば「冷えたものを選ぶ」のも手ですが、日本ではどれも常温。だから「温度」で差がつくのは、売り場ではなく買ったあとの持ち帰り方です。寄り道せず、できるだけ早く冷蔵庫(10℃以下が目安)へ。夏場や車内の高温は、とくに注意。

結局、売り場で確認できる項目を重み付けすると、日付(賞味期限。採卵日があればなお直接的)がまず決定的で、次に殻の状態(割れ・汚れ)。殻の色や飼育方法の表示は、中身の鮮度とは別の情報です。
売り場での選び方——4つの目印
- 賞味期限を見る──同じ売り場で2パック並んでいたら、賞味期限が先(遠い)のものを選ぶだけで、中身の鮮度はおおむね高くなります。これが最強の手がかり。採卵日が書いてあれば、より直接的です。
- 買ったら、早めに冷蔵庫へ──日本のスーパーは卵を常温で売るのが普通です(持ち帰り時の結露を避けるため)。売り場の温度より、寄り道せず帰って10℃以下で保存することのほうが効きます。夏場や車内の高温は要注意。
- 殻のひび・汚れを避ける──微細なひびは、サルモネラなどの細菌の入り口になります。見た目以上に、衛生面で大切。ひびのない新しい卵を選んで早めに冷蔵すれば、ふつうのスーパーの卵でも十分に安心です。
- 殻の色やつやは、選ぶ基準にしない──色は親鶏の品種で決まる個性で、中身の鮮度とは無関係。つやも、いまの卵は洗卵済みでほぼ均一です。「平飼い」などの表示も、鮮度の印ではなく別の価値の選択です。
家に持ち帰ってからも、原理は同じ
買って帰ったあとも、ここまでの話の延長線上です。卵を常温の棚に置くと、卵白の盛り上がりは買った時点より速く落ちます。冷蔵庫でも、ドアポケットは開け閉めで温度が動きやすいので、奥の安定した場所のほうが鮮度は保てます。パックのまま、とがったほうを下にして置くと、丸いほうにある空気の部屋が上にきて、卵黄への負担が小さくなるとされています。
まとめ——色でも表示でもなく、日付
「新鮮な卵をどう見分けるか」という素朴な問いに、研究はとてもシンプルに答えます。売り場で中身をいちばん正直に語っているのは、パックに印字された日付。殻の色や、表示の華やかさに惹かれる気持ちは自然なものですが、それらをいったん脇に置いて「賞味期限が先のものを選ぶ」「買ったら早めに冷蔵する」の二つを優先するだけで、家で割ったときの卵白の盛り上がりは確かに変わります。
出典情報
- 原著:Albumen Quality of Fresh and Stored Table Eggs: Hen Genotype as a Further Chance for Consumer Choice
- 著者:Rizzi C./掲載誌:Animals(MDPI)11(1), 135/発表:2021年1月10日
- DOI:10.3390/ani11010135/ライセンス:CC BY 4.0
本文の卵白の盛り上がり(ハウユニット)の保存による変化・殻の色と中身の関係・殻の厚みと品種差・重量の減り方は、この研究によります。
- ハウユニットの考案(R. Haugh, 1937)/クチクラ層・冷蔵保存・とがったほうを下にする保存——卵について広く知られた一般的な知見