鶏論KEIRON

ニワトリの目に、世界はどう見えている?

人と同じ景色を、同じように見ているのか

首をかしげ、横についた丸い目でこちらを見るニワトリの顔の実写写真。手書きの文字で「どう見えている?」

ニワトリの顔を正面から見ると、目は左右の横についています。人のように前を向いてはいません。地面をつついては、ときどき首をかしげて、片目でこちらをうかがう。その二つの丸い目に、私たちより劣った、単純な景色が映っている——なんとなく、そう思ってしまいます。

でも、そうとは言い切れません。ニワトリが見ている世界は、いくつかの点で人よりも豊かです。見分けられる色は人より多く、視野は体のまわりの広い範囲に届き、動きは人より細かく見えています。そのかわり、広く見えるひきかえに、正面をはっきり両目でとらえるのは苦手です。人とはずいぶん違う見え方をしています。

手がかりの中心は、ニワトリの目の奥(網膜)をこまかく調べた研究です。色・広さ・速さという三つの面から、その見え方をたどります。

人は三色、ニワトリは四色

人が色を見分けるのは、目の奥にある色を感じる細胞のはたらきです。この細胞には3種類あり、それぞれ赤・緑・青の光によく反応します。三つの組み合わせで、私たちはあらゆる色を見分けています。

ニワトリの目には、この細胞が4種類あります。赤・緑・青に加えて、もう一つ、紫(と、ほんの少し紫外線に近い光)をとらえる細胞をもっています。人が三色で見分ける世界を、ニワトリは四色で見分けている。だから、人には見分けのつかない、よく似た二つの色のちがいも、ニワトリには別の色として見えていると考えられます。

ニワトリの目の奥を調べた研究では、この色を感じる細胞が、種類ごとにそれぞれ、たがいに間をあけて規則正しく並び、網膜の全体に広がっていました。視野の広い範囲にわたって、色をこまかくとらえられるつくりです。

ただし、四つ目の細胞が感じるのは紫の光で、ミツバチのように紫外線をはっきり見わけるわけではありません。人の三色に、紫の一色が加わる——そう考えるのが実際に近いところです。

色とりどりの草花をついばむニワトリの実写写真。手書きの文字で「人は3色(赤・緑・青)」「ニワトリは4色(+紫)」と書かれている。

油の玉が、色の見分けを鋭くする

ニワトリの色の見分けを支えるしくみは、もう一つあります。色を感じる細胞の先に、赤や黄、緑をした小さな油の玉がついているのです。

この油の玉は、色つきのフィルターのはたらきをします。細胞に届く光を、いったんこの色ガラスに通してから受けとることで、よく似た色どうしのちがいが際立ち、色の見分けが鋭くなります。人の目に、こうしたしくみはありません。ニワトリは、4種類の細胞に色ごとのフィルターまで重ねて、こまかく色を見分けています。

横向きの目で、ほぼ一周を見わたす

色だけではありません。見えている範囲も、人とは大きく違います。

ニワトリの目は顔の横についているため、視野はとても広く、体のまわりのおよそ300度が見えています。首を動かさなくても、後方の広い範囲まで見張れる。天敵にねらわれる側の動物にとって、背後の気配を早く察するための広い視野です。

そのかわり、両方の目で同時に見える範囲は、くちばしの正面のごく狭いところ(20〜30度ほど)だけです。人は前を向いた二つの目で景色を重ねて見て、ものまでの距離をつかみます。ニワトリはこの重なりが狭いので、多くの場面では左右の目で別々の景色を見ています。えさをつつく前に首をかしげて片目でのぞきこむのは、横向きの目でしっかり見ようとする動きです。

真上から見たニワトリの実写写真。手書きの円弧と矢印で、体のまわり約300度が見える広い視野と、くちばし正面のごく狭い両目の重なり、頭の後ろに残る見えない範囲を示している。

動きは、人より細かく見える

最後は、時間の見え方です。ニワトリは、人より「速く」見ています。

光がついたり消えたりするとき、どれだけ速い点滅まで見分けられるか。人はおよそ1秒に60回の点滅でもう区切りが分からなくなり、光はつながって見えます。ニワトリはおよそ90回、速い個体では100回を超えても点滅を見分けられました。人にはなめらかに光って見える画面や照明が、ニワトリにはこまかくちらついて見えることがあります。素早く動くものも、人より一こま一こま細かくとらえていると考えられます。

では、目はよく見えているのか

ここまで、人より豊かな面ばかりを見てきました。では、像そのもののこまかさ(いわゆる視力)はどうでしょうか。

じつは、こまかいものを見分ける力は、ニワトリは人ほど高くありません。細部の見分けやすさは、人のおよそ4分の1ほどと見積もられています。ニワトリの世界は、人よりくっきりしているわけではないのです。そのかわりに、色の多さ・視野の広さ・動きの速さという、人とは違うものさしで世界をとらえています。

まとめ

  • 人は赤・緑・青の三色、ニワトリは紫を加えた四色で色を見分ける。人には同じに見える色も、別の色に見えていると考えられる。
  • 色を感じる細胞には色つきの油の玉(フィルター)がつき、色の見分けをさらに鋭くしている。
  • 目は横向きで、視野はおよそ300度。ただし両目で重なるのは正面のわずかな範囲だけ。
  • 点滅を見分ける速さは人のおよそ1.5倍。動きを人より細かく見ている。
  • そのかわり、像のこまかさ(視力)は人ほど高くない。くっきりさより、色・広さ・速さに寄った見え方。

ニワトリが片目で何かをじっと見つめるとき、その小さな目に映っているのは、人とは色も広さも違う世界です。


出典情報

主要原著(本記事の中心=色を感じる細胞と、その並び方)

本文のニワトリが色を感じる細胞を4種類(紫・青・緑・赤)もつこと(人が3種類=三色型なのに対し、ニワトリは四色型であること)、これらの細胞が種類ごとにそれぞれ独立して規則正しく並び、網膜をおおっていること色を感じる細胞の先の色つきの油の玉(油球)が、光を色でこして色の見分けを助けるフィルターの役目をもつことは、この原著によります。なお、明暗や動きをとらえる細胞(二重錐体)の役割は、この論文が測定・立証したものではなく、鳥類の視覚に関する一般的な知見です(同論文は、その細胞の存在と網膜での並び方を調べています)。

補足資料(各テーマの出典)

  • 点滅を見分ける速さが、人(およそ60回/秒)よりニワトリ(平均およそ87回/秒、速い個体は100回/秒を超える)で高いこと:Lisney TJ, Rubene D, Rózsa J, Løvlie H, Håstad O, Ödeen A「Behavioural assessment of flicker fusion frequency in chicken Gallus gallus domesticus」(Vision Research 51(12), 1324-1332/2011年/DOI 10.1016/j.visres.2011.04.009)。人と鳥では測定条件が異なるため、倍率はおおよその目安です。
  • 目が顔の横にあり、視野はおよそ300度、両目で重なるのは正面のごく狭い範囲(20〜30度ほど)であること:鳥類の目の位置と視野に関する一般的な知見(横向きの目をもつ鳥は広い全周視野をもつが、頭のま後ろ上方には見えない範囲も残る)
  • 細部を見分ける力(視力)が、人よりニワトリで低く、およそ4分の1程度と見積もられること:ニワトリの視力(空間解像度)に関する研究の知見
  • 四つ目の「紫」の細胞が、最大感度およそ415ナノメートルの「紫型(VS)」であり、一部の鳥やミツバチのような本格的な紫外線視覚(UVS=最大感度が380ナノメートルより短い)とは異なること:鳥類の短波長視覚色素の研究の知見

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