
水鳥の群れにまじって、一羽のニワトリが暮らす。アヒルたちといっしょに池に浮かび、足で水をかいて進む——そんな動画があります。ほほえましいけれど、どこか場違いにも見える。ニワトリは、本当に水鳥の仲間になれるのか。
なれます。育った相手しだいで、ニワトリは自分を水鳥の仲間だと感じて育ちます。しかも、しばらくのあいだなら本当に水に浮かんで泳げる。動画は作り物ではありません。ただ、水の上での身のこなしには、水鳥との大きな違いがかくれています。
この記事では二つのことをたどります。ひとつは、なぜニワトリが別の種の群れに溶け込めるのか。もうひとつは、その泳ぎが水鳥の泳ぎと何が違うのか。手がかりは、生まれたばかりのヒナの「覚え方」と、羽のつくりにあります。
最初に見た相手を「親」と覚える
ニワトリのヒナは、生まれて数日のあいだに、最初にそばにいた動く相手を「親・仲間」として覚えます。この覚え方を刷り込み(インプリンティング)といいます。ヒナはその相手のあとを追い、いつもそばにいようとします。
大事なのは、相手がニワトリである必要はないことです。刷り込みは種を選びません。動物行動学者のコンラート・ローレンツは、卵からかえったばかりのガチョウのヒナに自分を最初に見せました。すると、ヒナたちはローレンツを親と思い込み、どこへ行ってもあとをついて歩くようになりました。人間でも、動くものなら相手をつとめてしまう。それが刷り込みです。
ニワトリのヒナで、この覚え方が強くはたらくのはごく短いあいだです。ある研究では、刷り込みの力は孵化した翌日ごろに最も強く、四日目にはほとんど閉じてしまいました。しかもヒナは、母鶏でなくても、動いて目を引くもの——実験では人工の物——を相手に刷り込みを起こしました。生まれてすぐの数日、そばで動いていた相手が、そのままヒナの「仲間」になるのです。
だから、アヒルの群れの中で卵からかえり、アヒルに囲まれて育ったニワトリは、アヒルを仲間だと思って育ちます。ほかのニワトリを見ても、自分と同じだとは感じない。飼育の現場でも、群れになじめずにいたヒナをアヒルの小屋に移したところ、母アヒルのそばで眠り、アヒルの子と一日を過ごすようになった、という報告があります。

群れといっしょに、水に浮かぶ
仲間だと思えば、その群れが水に入るとき、ニワトリもついていきます。そして——しばらくのあいだなら、ニワトリも本当に水に浮かんで泳げます。
ニワトリは水に入ると、足を動かして前に進み、水面に体を浮かせていられます。動画で見る「アヒルみたいに泳ぐニワトリ」は、演出でも早送りでもありません。水の上のニワトリは、たしかにアヒルと同じように水面にいます。
ただ、水鳥のように長くは浮いていられません。水鳥が一日じゅう水に浮かんで過ごせるのに対し、ニワトリが浮いていられるのは、そう長くはありません。その差は、羽のつくりから来ています。
アヒルの羽は水を弾き、ニワトリの羽は吸う
アヒルをふくむ水鳥が水に強いのは、羽が「構造」と「油」の二段構えで水を弾くからです。ニワトリの羽は、そのどちらも水向きにはできていません。
一段目は、羽そのもののつくりです。水鳥の羽は、細かな枝(羽枝)が密に、規則正しく並んでいます。この細かい枝が水の粒を支え、羽の表面に薄い空気の層をつくって、水が肌まで届かないようにします。鳥の羽を調べた研究では、枝の並びが密なほど水を強く弾くことが数値で確かめられています。
二段目は、油です。鳥は、尾の付け根にある油の腺(尾脂腺)から出る油を、くちばしで羽にぬり込みます。水鳥の油は水をよくはじきます。いっぽう、陸で暮らす鳥の油は、はじく力が弱い。同じ研究で地上性のハトの油を調べると、かろうじて水をはじく程度でした。水鳥は、密な羽の構造と、よくはじく油の両方をそろえて、はじめて一日じゅう水に浮いていられます。
ニワトリは、この両方が水鳥におよびません。羽のつくりから見ると、ニワトリの羽はふんわりとして枝の並びがゆるく、水が肌まで届きやすい。油のはじく力も水鳥ほどではありません。だから水に入ってしばらくは浮けても、時間がたつと羽が水を吸い、体が重くなっていきます。水鳥のように、水中で乱れた体勢を立て直す力ももっていません。ニワトリにとって水は、長くいられる場所ではありません。面白がって水に入れると、思いのほか早く溺れてしまうこともあります。

仲間だと思っても、体は水鳥にはなれない
ここで、童話『みにくいアヒルの子』を思い出すと分かりやすいところがあります。
みにくいアヒルの子は、アヒルの群れになじめずにからかわれますが、正体はもっと立派な鳥——白鳥でした。なじめなかった子は、じつは仲間より上等な鳥だった、という話です。水鳥の群れで育ったニワトリは、その逆です。群れにはすっかりなじんでいるのに、体だけが水鳥にはなれない。同じ水に入っても、同じようには生きられません。
とはいえ、不幸な話ではありません。ニワトリには、ニワトリの得意があります。地面を足で掘り返して虫や種を探すのは、水鳥にはうまくできないこと。ニワトリの体は、水辺ではなく、地面をついばんで暮らすようにできています。水鳥の群れで育っても、水辺だけは体が追いつかない——ただ、それだけのことです。
まとめ
- ニワトリのヒナは、生まれて数日のあいだに最初にそばで動いた相手を「親・仲間」として覚える(刷り込み)。相手は種を選ばず、アヒルに育てられればアヒルを仲間と見なす。
- 覚える力が強いのはごく短いあいだで、孵化の翌日ごろが最も強く、四日目にはほぼ閉じる。
- ニワトリも、しばらくのあいだなら本当に水に浮かんで泳げる。水鳥の群れといっしょに池に浮かぶ姿は、作り物ではない。
- ただし長くは続かない。水鳥は羽の密な構造と、よくはじく油の両方で水を弾くが、ニワトリはどちらも水向きにできておらず、時間がたつと羽が水を吸って沈みやすくなる。
- 水鳥の群れで育ったニワトリは、群れにはなじんでも、体は陸の鳥のまま。
水鳥の群れにまじって泳ぐニワトリの動画を見かけたら、思い出してみてください。あの一羽にとって、まわりのアヒルは本物の仲間です。そしてしばらくのあいだ、たしかに同じ水に浮かんでいます。ただ水辺だけは、体がまだ追いついていないのです。
出典情報
主要原著(本記事の中心=ヒナの刷り込みと、その感受性期)
- 原著タイトル:Imprintability of Newly Hatched Domestic Chicks on an Artificial Object: A Novel High Time-Resolution Apparatus Based on a Running Disc
- 著者:Aoki N, Mori C, Fujita T, Serizawa S, Yamaguchi S, Matsushima T, Homma KJ
- 掲載誌:Frontiers in Physiology 13, 822638/発表:2022年
- DOI:10.3389/fphys.2022.822638/原文:Frontiers で全文を無料で読む(英語)/ライセンス:CC BY(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
本文のニワトリのヒナの刷り込みの力が孵化の翌日ごろに最も強く、四日目にはほぼ閉じること、ヒナが母鶏でなくても、動いて目を引く相手(実験では人工の物)に刷り込みを起こすことは、この原著によります。生まれてすぐの相手を「仲間」として覚えるこの性質が、別の種の群れに溶け込める土台になっています。
補足資料(各テーマの出典)
- 刷り込みは種を選ばず、卵からかえったガチョウのヒナが人間(ローレンツ)を親と思い込んでついて歩いたこと/覚える力に短い感受性期があること:コンラート・ローレンツによる刷り込みの古典的研究(1935年ごろ)にもとづく、動物行動学の一般的な知見
- 鳥の羽の防水は「羽の枝の密な構造」と「羽にぬる油」で決まり、枝の並びが密なほど水を強く弾くこと/地上性のハトの油は水鳥にくらべてはじく力が弱く、かろうじて水をはじく程度であること:Srinivasan S, Chhatre SS, Guardado JO, Park KC, Parker AR, Rubner MF, McKinley GH, Cohen RE「Quantification of feather structure, wettability and resistance to liquid penetration」(Journal of The Royal Society Interface 11(96), 20140287/2014年/DOI 10.1098/rsif.2014.0287)。この研究は水鳥(潜水する鳥)の羽を調べたもので、ニワトリそのものを測定したものではありません。本文のニワトリの羽についての記述は、羽のつくりからの推測をふくみます。
- 鳥が尾の付け根の腺(尾脂腺)から出る油を羽にぬり込み、防水などに役立てていること:鳥の尾脂腺と羽づくろいに関する研究の知見
- ニワトリは短いあいだは水に浮かんで足で進めるが、羽が水を含むと重くなって沈みやすく、水中で体勢を立て直すのが苦手なこと(まねして水に入れると溺れる危険があること):ニワトリとアヒルを一緒に飼うときの注意として知られる、家きん飼育の一般的な知見(水鳥は羽が水をはじくが、ニワトリの羽は水を含みやすい)