鶏論KEIRON

ニワトリは、片目を開けたまま眠れる?

群れのはしと真ん中で、眠り方は変わるのか

止まり木の上で目を閉じて眠るニワトリと、その群れのはしで片目だけを開けた一羽の実写写真。手書きの文字で「片目を開けて眠れる?」

水辺で、カモが一列に並んで眠っています。よく見ると、列のはしの一羽だけ、片目をうっすら開けている。その目は、じっと外を向いています。「群れの見張り役だ」——そんな話を聞いたことがあるかもしれません。

眠るとは、両目を閉じて意識を手放すこと。ふつうはそう思います。でも、鳥は違います。脳を右と左に分け、片方だけを眠らせ、もう片方は起こしておく。開いた目で、まわりを見張りながら休むのです。そしてニワトリも、この「半分の眠り」ができます

カモの実験で、何が分かったのか。ニワトリはどうなのか。そして、まだ分かっていないことは何か。

カモの実験:列のはしは、片目を開けて眠る

1999年に報告された実験があります。マガモ(カモの一種)を4羽ずつ一列に並べて眠らせ、脳波と目の開閉を記録しました。

すると、並んだ位置で眠り方が変わりました。内側の、仲間に囲まれた個体は、両目を閉じてぐっすり眠ります。ところが両はしの個体は、外を向いた目を開けたまま眠っていました。片目を開ける「半分の眠り」は、はしの鳥のほうが真ん中より2倍以上多かったのです。

はしは、いちばん危険な席です。仲間という壁がない側から、天敵は近づいてきます。だから、外に向けた目だけを開けておく。あやしい動きを見せると、鳥はすぐに目を覚ましました。片方の脳を休めながら、もう片方で外を見張る。眠りと目覚めを、一つの脳が同時にこなしていました。

水辺で一列に並んで眠るカモの実写写真。真ん中の個体は両目を閉じ、列のはしの個体だけが外を向いた片目を開けている。手書きの文字で「はしの鳥=外を向いた片目を開ける」「真ん中=両目を閉じる」と示す

脳の半分だけを眠らせる、というしくみ

なぜ、片目を開けると「半分だけ」眠るのでしょう。理由は、目と脳のつなぎ方にあります。

鳥は、右の目が左の脳、左の目が右の脳、とたすきがけにつながっています。だから、右の目を閉じると、つながった左の脳が眠ります。左の目を開けておけば、右の脳は起きたまま。脳波を見ると、閉じた目の側はゆっくりした眠りの波、開いた目の側は起きているときの速い波でした。脳の半分が眠り、半分が起きている。これが「半分の眠り」、正式には「半球睡眠」です。

両目を閉じる眠りと違い、休みながら、まわりを見張れる。それが、この眠りの特長です。

ニワトリも、半分だけ眠れる

この眠りは、カモだけのものではありません。じつは、「半分の眠り」を調べる代表的な動物が、ニワトリのヒナです。

ヒナの脳波を記録すると、カモと同じでした。片目を開けているあいだ、その反対側の脳だけが起きている。ニワトリも、脳を半分ずつ眠らせられるのです。いつもこうして眠るわけではありません。多くは両目を閉じて眠り、その合間にときどき半分の眠りをはさみます

開けた目は、天敵だけを見ているのではありません。親鶏や、仲間のいる方向にも向きます。半分の脳を休めながら、もう半分でまわりをうかがう。物音で驚かせると、ヒナはすぐ目を覚まして鳴きました。開いた目が、見張りとして働いている証拠です。

正面を向いたニワトリの顔の実写写真。向かって左の目は閉じ、右の目は開いている。手書きの文字で、閉じた目に「とじた目=反対がわの脳が眠る」、開いた目に「あけた目=反対がわの脳は起きて見張る」と注釈

眠る場所は、序列で決まる

ニワトリには、もう一つ事情があります。群れの順位です。

だれが上でだれが下か、という序列。「つつきの順位(ペッキング・オーダー)」と呼ばれ、約100年前(1922年)に名づけられた、動物行動学の古典です。

この順位は、夜の眠る場所にも表れます。ニワトリは、止まり木にとまって眠ります。研究によれば、上位ほど高い止まり木を使えました。高い場所は地上の天敵から遠く、いちばん安全だからです。夜になると、上位が下位を追い立てて、良い場所を確保します

こうして、安全な真ん中や高い所は、強い個体が占めます。弱い個体は、はしや低い所という、外にさらされた席に回されます。カモの実験を思い出すと、はしに回された個体ほど、気を張って眠ることになりそうです。

夜、一本の止まり木に並んでとまるニワトリたちの実写写真。中央の個体は両目を閉じ、両はしの個体は外を向いて片目を開けている。手書きの文字で「安全な真ん中=上位」「外にさらされるはし=下位」と示す

では、はしのニワトリは本当に見張っているのか

ここは、正直に線を引きます。「はしの個体ほど半分の眠りが増える」——これを確かめたのは、カモの実験でした。

ニワトリで分かっているのは、二つです。ひとつは、片目を開けた半分の眠りができること。脳波で確認されています。もうひとつは、順位で寝る場所が決まること。この二つは、そろっています。

でも、「はしのニワトリは、真ん中より半分の眠りが多いか」を実際に測った研究は、まだありません。カモで見えた「はしの見張り」が、ニワトリでも同じように起きるのか。それは、これからの宿題です。

DATA

じつは、人間も「半分の見張り」をしている

旅先のホテルなど、慣れない場所での最初の夜は、なぜか寝つけない。この「初日効果」を調べた研究があります。初めての夜だけ、左右どちらかの脳が浅く眠り、見張りのように働いていたことが分かりました。鳥ほどはっきり半分ずつではありません。それでも、慣れない場所では脳の一部が用心する。鳥の「半分の眠り」と、地続きの話です。

まとめ

  • 鳥には、脳を半分だけ眠らせる「半分の眠り」がある。開いた目で、休みながら見張れる。
  • カモの実験では、列のはしの個体ほど、外を向いた目を開けて眠っていた(真ん中の2倍以上)。はしが、いちばん危険な席だから。
  • ニワトリも、この半分の眠りができる。片目を開けると、反対側の脳だけが起きていると脳波で分かっている。
  • ニワトリの寝る場所は順位で決まる。上位は安全な高い所、下位は外にさらされたはし。
  • ただし、「はしのニワトリほど片目で見張るか」を測った研究は、まだない。仕組みと下地はそろっているが、確かめはこれから。

旅先の最初の夜、妙に寝つけないあの感じ。あれも、脳の半分が知らない場所を見張っているしるしかもしれません。群れのはしで片目を開けて眠る鳥の話は、案外、私たちの眠りとも地続きなのです。


出典情報

主要原著(本記事の中心=群れの位置と、半分の眠り)

  • 原著:Rattenborg NC, Lima SL, Amlaner CJ「Half-awake to the risk of predation」(Nature 397(6718), 397-398/1999年)
  • DOI10.1038/17037ライセンス:本文は購読者向け(有料)。本記事は同論文の要旨および下記の二次資料にもとづいて記述しています。

本文のマガモを4羽一列に並べて眠らせた実験列のはしの個体ほど片目を開けた半分の眠り(半球睡眠)が多く(真ん中よりおよそ2倍以上)、開いた目は群れの外側を向いていたこと開いた目に危険を示すと素早く目を覚ましたことは、この原著によります。

補足資料(各テーマの出典)

  • 片目・半球睡眠のしくみ(目と反対側の脳半球がつながり、閉じた目の側の脳は眠りの波、開いた目の側の脳は覚醒の波を示すこと)と、ニワトリのヒナで片目・半球睡眠が確かめられていること、その機能が危険への警戒や親鶏・仲間の監視にあること:Mascetti GG「Unihemispheric sleep and asymmetrical sleep: behavioral, neurophysiological, and functional perspectives」(Nature and Science of Sleep 8, 221-238/2016年/DOI 10.2147/NSS.S71970)。ニワトリのヒナは、この半球睡眠を調べる代表的なモデル動物です。
  • ニワトリの群れに順位(つつきの順位)があること:Thorleif Schjelderup-Ebbe による家鶏の社会行動の研究(1922年、ドイツ語で「Hackordnung」として報告。英語では「pecking order」と訳された)。動物行動学の古典で、2022年に命名100年を迎えました。
  • 止まり木の利用が社会的順位に左右され、上位の個体ほど高い(好まれる)止まり木を優先的に使え、夜の休み場所をめぐって上位が下位を追い立てること:Cordiner LS, Savory CJ「Use of perches and nestboxes by laying hens in relation to social status」(Applied Animal Behaviour Science 71(4), 305-317/2001年/DOI 10.1016/S0168-1591(00)00186-6)。なお、止まり木のはしにいる個体が真ん中の個体より半分の眠りを多くするかを、位置をそろえて比較・測定した研究は、本記事の作成時点では確認できていません。カモで示された「群れのはしでの見張り」を、ニワトリでそのまま実証したものではない点にご留意ください。
  • 人間も、慣れない場所での初めての夜(初日効果)には、片方の脳半球が浅く眠り見張りのように働くこと:Tamaki M, Bang JW, Watanabe T, Sasaki Y「Night Watch in One Brain Hemisphere during Sleep Associated with the First-Night Effect in Humans」(Current Biology 26(9), 1190-1194/2016年/DOI 10.1016/j.cub.2016.02.063

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