鶏論KEIRON

なぜ卵は朝に産まれるのか?

夕方でも夜でもなく、その時刻は何が決めているのか

明け方の鶏舎のイラスト。巣の藁の上にすわる茶色いめんどりと、その前に産みたての卵。窓から朝の光が差す。手書きの文字で「なぜ、朝?」

目玉焼き、ゆで卵、卵かけご飯。卵は、朝も昼も夜も、日本の食卓に欠かせません。けれど、その卵が鶏から「産まれる」時刻は、かなり朝にかたよっています。養鶏場をのぞくと、卵の大半は、午前中に産まれています。夕方や夜に産まれる卵は、ずっと少ない。なぜ、朝なのでしょうか。

卵が朝にそろうのは、偶然でも習慣でもありません。鶏の体の中では、1個の卵づくりに約一日かかります。その出発点になる「引き金」を引ける時間帯が、体内時計と光によって、一日のうちのわずかな時間に決められているからです。たどるのは、1個の卵ができるまでの一日と、その引き金が引かれる時刻です。

1個の卵は、約一日かけてできる

卵づくりの出発点は、卵巣です。鶏の卵巣では、黄身が、小さいものから大きいものへと大きさの順に、いくつも連なって育っています(焼き鳥の「きんかん」「玉ひも」は、この育ちかけの黄身です)。そのうち、いちばん大きく育った黄身が放たれる——これが排卵で、1個の卵の始まりです。

放たれた黄身は、細い管を下りながら、まわりに白身をまとい、いちばん外側にをまといます。白身がつくのは数時間。いちばん時間がかかるのが殻づくりで、17〜20時間ほどかけて、殻の材料である炭酸カルシウムを少しずつ積み上げます。黄身が放たれてから卵が産まれるまで、合わせて約25〜26時間。1個の卵は、まる一日とすこしをかけて作られます。

鶏が卵をつくるしくみのイラスト。左から、卵巣で大きさ順に育つ黄身の房(玉ひも)→排卵→卵管を下りながら白身がつく→殻づくり(いちばん長い)→産卵、と左から右へ流れる。各段に手書きのラベル

殻は、鶏が眠る夜のあいだに作られる

殻づくりに17〜20時間かかるということは、朝に産まれる卵の殻は、その大半が前日の午後から、夜のあいだに作られていることになります。鶏が止まり木で眠っているあいだも、体の中では殻が積み上がっていきます。

夜のあいだ、鶏は餌を食べません。殻に使う大量のカルシウムは、このとき骨にためておいた分から取り出して使います。鶏の骨の一部は、殻のためのカルシウムをためる貯金箱の役目を持っています。朝に産まれる卵の硬い殻は、夜の体が用意したものです。

夜の鶏舎のイラスト。止まり木で羽をふくらませて眠る茶色いめんどり。窓の外は満月の夜空。下の巣箱は藁だけで空。

産卵の時刻を決める、「時間の窓」

では、なぜ卵づくりの始まりが、いつも決まった時間に来るのでしょうか。鍵は、出発点の排卵にあります。

排卵は、体の中で出る引き金(ホルモン)で起こります。この引き金は、いつでも引けるわけではありません。引けるのは、一日のうち決まった数時間の「窓」だけ。そして、その窓を一日のどこに合わせるかを決めているのが、体内時計と光です。

この窓があるおかげで、卵づくりの始まる時刻がそろい、できあがった卵は、朝の決まった時間帯に産まれます。これが、卵が朝にそろう理由です。明かりの当て方を変える実験でも、昼と夜の長さを変えると、卵が産まれる時刻はそれにつれて動きました。光が、産卵の時刻を決めています。

ここで、もうひとつ。1個の卵づくりにかかる約25〜26時間は、一日(24時間)より少し長い。だから卵が産まれる時刻は、毎日少しずつ後ろにずれていきます。ずれが続くと、ある日、引き金を引く番が「窓」の外に来てしまう。その日は引き金が引けず、排卵が起こりません。鶏は一日休み、翌日また窓の頭に戻ります。数日続けて産んで、一日休む——卵が毎日きっかり1個ではないのも、この窓のしくみのためです。

1日24時間を表す丸い時計のイラスト。上が昼の12時、下が真夜中の0時、左が朝6時、右が夕方18時。朝(左上、6〜12時)が夜明けの光で明るい「窓」になり、その中に茶色い卵。手書きの白い文字で「朝の窓」「毎日少しずつ遅れる」

卵ができる一日の流れ

朝に1個の卵が産まれるまでの一日を、時間の流れでならべると、こうなります。

  • 産卵の約一日前:黄身が放たれる(排卵)。卵づくりの始まり
  • 夜のあいだ:黄身に白身がつき、殻が作られる。鶏は眠っている
  • :殻まで仕上がった卵が産まれる

まとめ

  • 卵づくりは約一日がかり:排卵から産卵まで約25〜26時間。いちばん長いのは殻づくり(17〜20時間)。
  • 殻は夜のあいだに作られる:朝の卵の硬い殻は、鶏が眠る夜に、骨にためたカルシウムから作られる。
  • 始まりには「時間の窓」がある:排卵の引き金は、光と体内時計が決めた一日の限られた時間にしか引けない。だから卵づくりの始まりがそろい、産卵が朝に寄る。
  • 毎日きっかり1個ではない:サイクルが一日より少し長いため時刻が後ろにずれ、窓を外れた日は1日休む。

いつもの卵は、鶏の体内の時計と光が決めた時刻に、まる一日かけて作り上げられたものです。そう思うと、いつもの一個が少し違って見えてきます。


出典情報

  • 原著:Discontinuities in understanding follicular development, the ovulatory cycle and the oviposition cycles in the hen(C. G. Scanes)
  • 掲載誌:Frontiers in Physiology 13, 1023528/発表:2022年
  • DOI10.3389/fphys.2022.1023528ライセンス:CC BY 4.0

本文の、排卵から産卵までの間隔がおよそ24〜27時間で一日より長いこと排卵が前の卵の産卵の約30分後に起こること排卵をうながすホルモン(黄体形成ホルモン=LH)の高まりが一日のうち限られた時間帯(open period)にしか起こらず、明るい時間にはおさえられること昼夜の長さを変えると産卵時刻が動くこと時刻が毎日後ろへずれ、ある日排卵が起こらず連産が途切れること(クラッチ)は、この原著(鶏の排卵・産卵サイクルに関するレビュー)によります。

  • 殻づくり(石灰化)に17〜20時間かかること、炭酸カルシウムが毎時約0.33g沈着すること、子宮で体内時計の遺伝子がリズムをもって働くこと、卵づくりの合計が約25〜26時間であること:Zhang Z, et al. (2021) “A transcriptome analysis for 24-hour continuous sampled uterus reveals circadian regulation of the key pathways involved in eggshell formation of chicken” Poultry Science 101(1), 101531. 10.1016/j.psj.2021.101531
  • ニワトリの7割以上が午前9〜10時ごろをピークに産卵し、ほとんどが午前中に産み終えること:JA全農たまご・鶏三和ほか採卵養鶏の知見(夜間は外敵に弱く、産卵に必要なホルモンは光の刺激で分泌されるため、産卵は午前に集中する)
  • 夜のあいだ、殻のカルシウムを骨(髄質骨)にためた分から動員すること:家禽の骨・カルシウム生理に関する一般知見(Whitehead 2004 ほか)
  • 白身(卵白)が卵管で数時間かけて分泌されること:家禽生理学の一般知見

関連する記事