鶏論KEIRON

ニワトリは恐竜の子孫なのか?

T.レックスと、食卓の鶏をつなぐ手がかり

地面を見つめるニワトリの横顔の実写写真。うしろにうっすら恐竜の影。手書きの文字で「恐竜の子孫?」

ニワトリの足を、よく見てみてください。うろこにおおわれ、前を向いた三本の指。地面をつかむその脚は、羽毛の体には少し不釣り合いで、どこか恐竜を思わせます。恐竜が地上から消えて6600万年。あの巨大生物と、身近なニワトリ。まるで別世界の生きものに見えます。

でも、そうではありません。鳥は、あの大絶滅を生きのびた、ただ一つの恐竜の系統。ニワトリもそのなかまです。だとすれば、食卓の鶏肉も、分類のうえでは恐竜の肉です。

裏づけは、いくつもあります。骨のかたち、太古のたんぱく質、そして生きた鶏をつかった実験。まったく違う角度から、同じ答えが出てきます。近年は、恐竜の歩き方や顔つきを、生きた鶏で再現する実験も行われました。

「恐竜から進化した」のではなく、恐竜の一員

「鳥は恐竜から進化した」とよく言われます。でも正確には、鳥そのものが、恐竜のなかまです。

生きものは、枝分かれした一本の家系図でつながっています。恐竜という大きな幹から、二本足の肉食恐竜「獣脚類(じゅうきゃくるい)」という枝が伸び、そこにはティラノサウルスもヴェロキラプトルもいます。鳥もまた、この獣脚類の仲間です。コウモリが哺乳類の一員であるのと同じ意味で、鳥は恐竜の一員です。

6600万年前、巨大な隕石が衝突し、恐竜の大半が絶滅しました。生きのびたのは、鳥の系統だけです。だから鳥は、いまも生きている恐竜です。ただし、ニワトリ自体が大昔からいた種ではありません。生きのびた鳥から、ずっとあとに分かれた新しい種です。

証拠①:骨と羽に残る、恐竜の特徴

まず、化石に残る体のつくりです。鳥の体には、恐竜から受け継いだ特徴がいくつもあります。

たとえば、鶏の胸にあるY字の骨。英語では、願かけに二人で引っぱる「ウィッシュボーン」、和名を叉骨(さこつ)といいます。長く鳥だけのものと思われてきましたが、ティラノサウルスをはじめ、多くの獣脚類の恐竜も持っていました。ほかにも、前を向いた三本指の足、軽くて中が空洞の骨。鳥の特徴とされてきたものが、次々に恐竜の化石から見つかっています。

いちばんの決め手は羽毛です。1996年、中国で、全身に羽毛をまとった恐竜(シノサウロプテリクス)の化石が見つかりました。その後、羽毛をもつ恐竜は数十種にのぼります。羽毛は、空を飛ぶために生まれたのではなく、飛べない地上の恐竜が、すでに身につけていたものでした。約1億5000万年前の始祖鳥(しそちょう)は、羽毛と翼をもちながら、歯や長い尾の骨といった恐竜の特徴も残しています。恐竜と鳥の中間の姿です。

ニワトリの前を向いた三本指の足のアップの実写写真。手書きの文字で「前を向いた三本の指」「うろこ」「どれも恐竜と同じ」と書かれている。

証拠②:T.レックスのたんぱく質が「鳥」に近かった

化石は「かたち」の証拠でした。では、体をつくる分子ではどうか。2008年の研究があります。

研究チームは、絶滅の少し前、約6800万年前のティラノサウルス(T.レックス)の骨から、残っていたコラーゲン(体をつくるたんぱく質)を取り出しました。その並びを、ニワトリ・ダチョウ・ワニ・カエル・ヒトなど現生の21種と比べたところ、ティラノサウルスのコラーゲンは、ワニやトカゲより鳥にいちばん近いものでした。骨のかたちだけでなく、分子のうえでも、恐竜と鳥はつながっていました。

ただし、この結果は慎重に受けとる必要があります。取り出せたのはコラーゲンのごく一部(89アミノ酸ぶん)で、鳥のどの枝にいちばん近いかまでは分かりません。比べた相手にニワトリとダチョウが入っていたのも、たまたま配列のデータがそろっていたから。だから「ニワトリはT.レックスにいちばん近い」は言い過ぎで、近いのは鳥ならどれも同じです。

ティラノサウルスの骨の化石の実写写真。手書きの文字で、そこから取れたコラーゲンが鳥に近かったことを示している。

証拠③:人工の尾をつけると、恐竜のように歩く

化石も分子も、遠い過去の話です。いま生きている鶏で、恐竜を確かめられないか。2014年、そんな実験が行われました。

ニワトリと、ティラノサウルスのような二本足の恐竜では、歩き方がずいぶん違います。恐竜には長く重い尾があり、重心が後ろ寄り。だから太ももの骨を立て、脚のつけ根(股関節)から大きく振って歩いていたと考えられます。いっぽう、いまの鳥は尾が短く、重心が前寄り。太ももの骨を寝かせたまま、ひざから先だけを動かして歩きます

研究チームは、ヒヨコに人工の尾をつけて育てました。木の棒と粘土でつくった、つけ根の重い尾で、重さは体重の15%ほど。成長に合わせて、5日ごとに作りかえます。すると、重心が後ろに移った鶏は、立ったときの太ももの骨がふつうより40%ほど立ち上がりました。歩くときの振れ幅も、約3倍に。二本足の恐竜について推測されてきた、股関節から脚を振る歩き方に近づきました。

重心の位置を変えるだけで、恐竜のような歩き方が現れる。体のかたちが、動きをそのまま決めているのです。ただし、鳥の進化で重心が前に動いた主な原因は、尾が縮んだことよりも翼が大きくなったことだと考えられています。この実験は、尾で重心を動かして恐竜の姿勢を再現しました。

人工の尾をつけて歩くニワトリの実写写真。矢印と手書きの文字で、重心が後ろへ移り太ももの骨が立つ(恐竜のような歩き方)ことを示している。

証拠④:ニワトリの胚は、恐竜の顔に近づく

恐竜のなごりは、歩き方だけではありません。顔にも、卵の中で育つ胚に残っています。

鳥の顔でいちばん目立つのは、くちばしです。左右がぴったり合わさって、前にとがっている。ところが、鳥に近いヴェロキラプトルには、このくちばしがありません。顔の先は、丸みをおびた左右一対の口先です。2015年の研究チームは、この違いがどこで生まれるのかを調べました。

カギは、顔をつくる二種類のたんぱく質(FGFとWnt)がはたらく場所でした。爬虫類の胚では、この二つは顔の左右二か所ではたらきます。ところが鳥の胚では、顔の中央でも、帯のように広くはたらく。この鳥だけのしくみが、左右の骨を中央でつなぎ合わせ、とがったくちばしを作っていました。

そこでチームは、この鳥だけのはたらきを、薬をしみ込ませたビーズで抑えてみました。すると、くちばしのもとになる骨は融合せず、丸みをおびた左右一対の、恐竜に近い口先に戻りました。口の天井(口蓋)の骨も、いっしょに古い形に戻ります。この変化は、手を加えた胚の多く(生き残った67個体のうち42個体)で起き、何もしなかった胚では、一つも起きませんでした。

ただし、恐竜を作ったわけではありません。変えたのは口先の骨だけ。新しい遺伝子も入れていませんし、胚はふ化させていません。鳥になってから加わったしくみを止めると、その下から古い形が戻る——それだけのことです。恐竜の体を作る仕組みは、いまも鶏の中に残っています。

ニワトリの横顔の実写写真。手書きの矢印で、とがったくちばしが恐竜に近い丸い口先へ変わる様子を示している。

まとめ

  • 鳥は、大絶滅を生きのびた、ただ一つの恐竜の系統。ニワトリはそこから分かれた現代の一種で、恐竜の子孫であり、一員でもある。
  • 化石の骨(叉骨・三本指・羽毛)、太古のたんぱく質生きた鶏の二つの実験。どれも同じ答えを指す。
  • 恐竜そのものは絶滅しても、その体を作る仕組みは、いまも鶏の中に残っている。

次にニワトリや鶏肉を見かけたら、その足もとを思い出してみてください。三本指で地面をつかむ脚は、大絶滅を生きのびた恐竜の、いまの姿です。


出典情報

主要原著(本記事の中心=生きた鶏による二つの実験)

  • 証拠③(歩き方)の原著:Grossi B, Iriarte-Díaz J, Larach O, Canals M, Vásquez RA「Walking Like Dinosaurs: Chickens with Artificial Tails Provide Clues about Non-Avian Theropod Locomotion」(PLoS ONE 9(2), e88458/2014年)
  • DOI10.1371/journal.pone.0088458原文PLoS ONE で全文を無料で読む(英語)ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
  • 証拠④(顔・発生)の原著:Bhullar B-AS, Morris ZS ほか「A molecular mechanism for the origin of a key evolutionary innovation, the bird beak and palate…」(Evolution 69(7), 1665-1677/2015年/DOI 10.1111/evo.12684

証拠③(歩き方)は Grossi ほか(2014)によります。ヒヨコに体重の約15%の人工尾をつけて育てると重心が後方へ移り、大腿骨がより垂直になり(立位で約40%)歩行時の可動域が約3倍になって、股関節主導の歩き方に近づきました。なお原著は、鳥の進化における重心の前方移動の主因は、尾の縮小よりも前肢(翼)の大型化だと注記しています。本実験は尾を足して重心を動かす方法で恐竜型の姿勢を再現したものです。証拠④(顔)は Bhullar ほか(2015)によります。顔をつくるFGF・Wntの中央でのはたらきは鳥だけに見られ、ニワトリ胚でそれを抑えると、くちばしのもとの骨(前上顎骨)と口蓋の骨が恐竜に近い左右一対の形に戻りました(生き残った胚67個体中42個体・対照群では生じず)。作り替えられたのは口先まわりの骨で、恐竜そのものを作ったわけではなく、胚はふ化させていません。

補足資料(各テーマの出典)

  • ティラノサウルスの骨に残ったコラーゲンが、爬虫類より鳥に近かった/判定できたのはごく一部(89アミノ酸ぶん)で、鳥のどの枝に最も近いかまでは決められない:Organ CL, Schweitzer MH ほか「Molecular Phylogenetics of Mastodon and Tyrannosaurus rex」(Science, 2008, 10.1126/science.1154284
  • 鳥は獣脚類の恐竜の一員であること/叉骨・三本指の足・中空の骨・羽毛などの特徴が恐竜に由来すること/羽毛恐竜・始祖鳥が恐竜と鳥をつなぐこと:Xu X ほか「An integrative approach to understanding bird origins」(Science, 2014, 10.1126/science.1253293)ほか、恐竜と鳥の進化に関する古生物学の知見(羽毛恐竜シノサウロプテリクスの発見は1996年、中国)

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