
「鳥なみの頭」「ニワトリは三歩歩けば忘れる」。ニワトリは、何も考えずに地面をついばむだけの単純な家畜、と思われがちです。世界でいちばん数の多い鳥で、300億羽以上が飼われているのに、その「頭の中」は、長いあいだ軽く見られてきました。
でも、行動や知能を調べる研究を重ねると、まるで逆の姿が見えてきます。孵化して数日のひなが数を比べ、おとなのニワトリは「あとで来る大きなごほうび」を待つ。スウェーデンの研究チームが、ニワトリと、その野生の祖先「セキショクヤケイ」の研究を整理した論文をもとに、その頭の中をのぞいてみます。
孵化して数日のひなが、数を比べる
数を見分ける力は、生まれたばかりのひなでも確かめられます。代表的な実験では、同じ形の小さなボールを2個と3個、ひなに見せたあと、それぞれをついたての裏に隠します。すると、ひなは数の多い側(3個)に近づいていきました。
さらに、隠れて見えなくなった物の「出入り」も追いかけます。ボールが一つずつ別のついたての裏へ動いていくのを見せると、ひなは最後に多く隠れている側を選びました。足したり引いたりした、その結果の多いほうへ。生後3〜4日のひなが正しく選べたのは、およそ4分の3の場面でした。
言葉を持たない生き物がもつ、「数の感覚」の一種です。人も、まだ言葉を話せない赤ちゃんのころから、似た感覚を持つとされています。

「あとで来る大きなごほうび」を待てる
目先の小さなごほうびに飛びつかず、あとから来る大きなごほうびを待つ。これは「自分をおさえる力」の目安で、サルや幼い子どもでも調べられてきました。ニワトリにも、この力があります。
ある実験では、めんどりに二つの選択肢を与えました。「2秒待つと、3秒だけ食べられる」か、「6秒待つと、22秒も食べられる」か。めんどりは、長く待つ側——大きいごほうびのほうを選びました。
「待つ価値がある」と分かれば、目先の衝動をおさえて待つ。何も考えずについばむ、というイメージとは反対です。先のことを見こして、いまの行動を選んでいます。こうして先を読む力は、ニワトリが自分の過去や先のできごとを思いえがける可能性を示すと考えられています。
仲間を顔で覚える——30羽まで
ニワトリは、群れの仲間を顔や姿で見分け、だれが強いかの順位まで覚えています。見分けられるのは、だいたい30羽ほどまでとされます。これを超えると、順位の関係はうまく保てなくなります。
見た目だけではありません。鳴き声でも、一羽一羽を区別します。だれが強いか、どの相手が向かってくるか。こうした「仲間の記憶」が、群れの中でうまく生きていく土台になります。
野生のニワトリの群れは、せいぜい20羽ほど。30羽までという見分けの力は、その暮らしに合った大きさです。一方、商業的な養鶏では一つの鶏舎に数千〜数万羽が入ることもあり、これは見分けられる数をはるかに超えます。仲間を覚えきれない群れでは順位が定まらず、落ち着かない状態が続きやすい。のびのび暮らせる小〜中規模の群れのほうが、ニワトリの頭のはたらきには自然です。
おんどりは「うそ」をつき、めんどりは見やぶる
ここまでは「よく覚える」「よく待つ」という賢さでした。けれど、ニワトリの賢さがいちばんはっきり出るのは、仲間とのかけひきかもしれません。
おんどりは、おいしい餌を見つけると「コッコッ」と独特の声で鳴き、めんどりを呼びます。ところが——餌が何もないのに、この「餌だよ」の声を出すおんどりがいます。めんどりを近くに呼びよせるための、うそです。
そして、めんどりも、ただだまされてはいません。うその餌の声をくり返すおんどりを、しだいに避けるようになります。どのおんどりが信用できるか、その「評判」を覚えているのです。うそをつく側と、それを見やぶる側。ニワトリの群れの中では、こんなかけひきが起きています。

ひなの不安が、母めんどりに伝わる
ニワトリは、ほかの仲間の気持ちにも反応します。よく知られた実験では、ひなに弱い空気を吹きかけて少し驚かせ、その様子を母めんどりに見せました。
すると、自分は何もされていない母めんどりのほうにも、変化が表れました。心拍数が上がり、毛づくろいをやめてあたりを警戒し、ひなに向けて声をかける。このとき、目のまわりの皮ふの温度が下がっていました。気持ちが張りつめたときに起こる、体の反応です。

ひなの様子を見ただけで、体が反応する。仲間の気持ちが自分にうつるこの現象は、人やネズミ、犬でも確認されていて、「共感」のいちばん基礎の段階と考えられています。
家畜になっても、賢さは失われていない
ニワトリが家畜になったのは、数千年前の東南アジアとされます。野生の祖先セキショクヤケイと比べると、家畜になって変わった点と、変わらない点が見えてきます。
変わったのは、警戒心が薄れ、体が大きくなり、たくさん卵を産むようになったところ。一方で、数を比べる、先を待つ、仲間を見分けるといった基本的な頭のはたらきや、社会性、気持ちの反応は、ほとんど変わっていません。家畜にするための選びぬきは、ニワトリの賢さには影響しなかったと考えられています。
つまり、いま私たちの身近にいるニワトリは、野生の祖先と変わらない賢さを持ち続けている、ということです。
まとめ
- ニワトリは数を比べ、先のごほうびを待ち、仲間を顔で覚え、うそを見やぶり、仲間の不安に反応する。「ただの家畜」のイメージとは、かなり違う。
- 「記憶力が悪い」どころか、30羽もの仲間を顔で見分けて覚えている。
- 群れが大きすぎると覚えきれず、落ち着かなくなる。小〜中規模の群れのほうが、ニワトリには自然。
- 家畜になっても、その賢さは野生の祖先から受けついだまま。
「ニワトリは賢くない」という思いこみは、実験の結果とは合いません。卵や鶏肉を選ぶとき、その向こうにいるニワトリが、数を比べ、仲間を覚え、かけひきまでする生き物だと知っておく。それだけで、飼われ方への見方も、少し変わるかもしれません。
出典情報
主要原著(本記事の中心)
- 原著タイトル:Sophisticated Fowl: The Complex Behaviour and Cognitive Skills of Chickens and Red Junglefowl
- 著者:Laura Garnham, Hanne Løvlie
- 掲載誌:Behavioral Sciences(MDPI)8(1), 13/発表:2018年
- DOI:10.3390/bs8010013/原文:MDPIで全文を読む(英語)
- ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
本記事の数の感覚・自制心・個体識別・おんどりの欺き・感情伝染・祖先セキショクヤケイとの比較・家畜化が賢さに影響しなかったことという大枠は、この原著レビューの整理によります。各実験の細部は、レビューが引用する個々の研究によります。
補足資料(各実験・数値の出典)
- 世界のニワトリの数(300億羽以上):FAOSTAT(2023年・約340億羽)
- ひなの数の比較・足し引き(約4分の3が正解):Rugani R, et al. “Arithmetic in newborn chicks”(2009, Proceedings of the Royal Society B 276, 2451)ほか
- 「あとで22秒の大きなごほうび」を待つ自制心:Abeyesinghe SM, et al. “Can domestic fowl, Gallus gallus domesticus, show self-control?”(2005, Animal Behaviour 70(1), 1)
- 約30羽までの個体識別と順位の記憶:家禽行動学の知見(順位を保てるのは群れがおよそ30羽以下のとき)
- 母めんどりの感情伝染(心拍数の上昇・目のまわりの温度低下・警戒):Edgar JL, et al. “Avian maternal response to chick distress”(2011, Proceedings of the Royal Society B 278, 3129)
- おんどりの餌コールによる欺きと、めんどりの「評判」学習:原著レビューおよびその引用研究による
- 家畜化(数千年前・東南アジア・複数起源):原著レビューほか